終末期ケアのあり方は,20 世紀後半に大きな変貌を遂げた。19 世紀半ばのアイルランドに蒔かれたホスピス運動の種子は,まず英国のC. ソンダースによって育てられた。次いでカナダでは,同じ種子が「緩和ケアpalliative care」として成長し,ホスピス・緩和ケアは今や,世界中で豊かな実りをみせている。ホスピス・緩和ケアは,終末期ケアの改善に貢献しただけでなく,標準的なケアプログラムに波及的な効果を与え,ヘルスケアの質的な向上に広く影響を及ぼしてきた。
しかし,緩和ケアの確立と普及とともに,ホスピス運動を主導してきた問題意識は,希薄になりつつあるようにみえる。それは「死と正面からむきあう」という態度である。ホスピス・緩和ケアをさらに発展させていくため,私たちはその出発点を確認しつつ,前進していかなければならない。
この展望のもと,本稿では,最新の知見と歴史的な遺産にともに学びながら,死とむきあうことの意義を見定めていく。