もし,本来的な緩和ケアがなされるのであれば,緩和ケア病棟では,一般病棟より丁寧できめ細かな配慮に満ちたケアがなされるはずである。それでも,そこが病棟であることに変わりはない。
看護は死にゆく人と関わる数少ない職種のひとつである。そのため,古くから看護の領域では死をテーマとする研究が行われてきた。これまでに大切な患者のいのちと向き合う看護師だからこそ得られた多くの研究成果の蓄積がある。本研究では,日本の看護領域別におけるグリーフ研究の動向を調査し,今後の研究課題やグリーフ研究の展望を検討することを目的とする。
ホスピスボランティアの活動
私がガラシア病院ホスピス病棟のボランティアになったのは2006年,今から約10年前である。
私の家内がこの病棟で5カ月の入院ののち昇天した。入院中の後半からは完全に寝たきり状態になった。それでもベッドに乗せたまま,音楽を聞かせるためデイルームに連れて行った。デイルームで電子ピアノやギターを私が触っていると,意外にも,他の患者さんや家族の方からすごく喜んでいただいた。このとき,音楽には癒す力があると,初めて感じた。歌を一緒に歌ったり,ふれあいの場にもなっていた。このことが家内の死後もすぐにボランティアになるきっかけになった。遺族でしかも男性がホスピスボランティアになるのも,継続的に音楽ボランティアをするのも,この病院では初めてである。
以後,ボランティアを続け,現在も週に4日は,ホスピス病棟のデイルームで活動している。
つながりが感じられる場の提供─チャプレンの存在を通して
筆者がチャプレンとして勤める亀田総合病院は非宗教立の急性期民間病院である。緩和ケア病棟を有せず,コンサルテーション型の緩和ケアチームが,がんや非がん,早期や終末期の区別なく,救命救急からリハビリの領域まで,対処困難な苦痛・苦悩を抱える患者および家族への介入依頼を院内の全科から受け活動している。筆者は,緩和ケアチームの一員としてチーム医療の一端(スピリチュアルケア)を担うとともに,独立した立場にて患者や家族および院内スタッフへのケアにあたっている。
心理士の立場から大切にしていること
死別は誰もが経験する普遍的なライフイベントだが,悲しみを生きるというその切実な営みはすぐれて固有である。古語では「愛し」を「かなし」と読むように,喪った人を想う愛しみと悲しみは同じ心情の2つの顔だからこそ,悲しみのあるところにはさまざまな思いが去来する。深い哀惜の念や自己の徳性を損なうほどの怒り,自責と悔いの呻吟,一切の拠り所を失ったかのような空虚感,さらには,“悲痛”としか表現しえない痛切な情感が胸を貫くような事態も含めて,一言に「グリーフ」と命名されるその内実はどこまでも多様でありうる。
緩和ケア医に必要なビリーブメントケアとは?
大切な家族との死別は喪失を伴う重大で深刻な出来事であり,家族は喪失に伴い悲嘆と呼ばれる情緒的体験をしている。遺族のケアでは,家族の死に対して十分に悲しみ,その事実を認めて向き合い,自ら乗り越えていく作業を自然に行えるように支持的サポートを行う必要がある。この過程を支援することで,複雑性悲嘆への移行を予防することができる。
訪問看護師のとしての家族ケア
人には必ず死が訪れる。誰にも必ず訪れることではあるが,自分の身近な人にはまだまだ先のことと,なんの根拠もなく信じてしまう。自分がどうしたいか,自分の大事な人をどうすべきか,日頃から考えていてもそのときには迷い,戸惑うのに,考えられていなければそのときに慌てる,戸惑うのは当然のこと。大事な人がいなくなってからの生活なんて,まったくの想定外,どれだけの悲嘆が覆い被さるのかは想像を超えることだろう。
スタッフのグリーフについて考える
緩和ケアの領域に関わるスタッフは,日夜,患者や家族のために何かできることはないかと常に考え活動をしている。私たちスタッフは患者と家族の援助者ではあるが,それまでケアを提供してきた患者を亡くしたという点においては,喪失を経験したといえるだろう。ただし,患者と死別したときも,目の前には別の闘病している患者や家族がいて,休む暇なくケアを提供し続けなければならない。そのため,悲しい気持ち・やるせない気持ちがあったとしても,そこにそっと蓋をして,臨床に励むこととなる。
遺族会などに参加されない方への対応
WHO(世界保健機関,2002年)は,緩和ケアについて患者のケアだけではなく家族が死別後の生活に適応していくための支援についても述べている。そのため,全国のホスピス・緩和ケア病棟では,さまざまなかたちで遺族ケアが展開されている。
坂口らの2012年の調査結果によると,ホスピス・緩和ケア病棟で死亡した遺族に対して,「追悼会(遺族会・家族会)」を実施している医療機関が73%にのぼっていた。しかし,参加率は20%未満の施設が半数以上であったと報告している。
悲嘆が強い遺族への長期的な対応
この10 年ほどの間に,ホスピス・緩和ケア施設におけるビリーブメントケアの提供は重要な役割のひとつであると十分に認識されてきており,多くの施設で各種のビリーブメントケアサービスが実施されている。大多数の遺族が提供されるケアを支えのひとつとして死別後の生活にうまく適応している一方で,悲嘆が強かったり長期に及んだりしている遺族も存在する。本項では,ホスピス・緩和ケア施設で行う悲嘆の強い遺族への対応について述べた後,筆者の経験に基づいた実際の状況や関わり方を紹介したい。
病棟を訪れる(挨拶に来られる)遺族への対応
遺族に対するケアはホスピス・緩和ケアにおける重要な位置づけとして多くの施設でさまざまな取り組みがあるが,これらは遺族に対する医療者からの意図的な支援である。一方,遺族は自らの意思で,大切な患者を見送った病棟へ挨拶に訪れることがある。看取りの場でもあるホスピス・緩和ケア病棟では,このような場面を多く経験するのではないだろうか。本項では,自施設の状況も紹介しながら,病棟を訪れる遺族とそのビリーブメントケアについて考えたい。
死別後に遺族が経験するグリーフは,正常な反応である。しかし,個別性が高く,遺族のサポートニーズもさまざまである。多くの遺族は,自分自身のグリーフが正常なプロセスであることを理解し,自身がもつサポートを活用し新しい生活に適応していこうとする。その一方で,故人がいない生活に適応していくことが難しく,身体的,精神的な健康問題のリスクが高まる家族もいる。
J-HOPE 研究(遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究)とは,日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の研究事業として,わが国で実施されている全国遺族調査である。第1回目は2007年,第2回目は2011年,そして第3回目となるJ-HOPE3研究は2014年に実施された。J-HOPE研究の主の目的は,患者が受けた緩和ケアを構造・プロセス・アウトカムの視点から評価することである。死別後の遺族の悲嘆反応の内容や程度は重要な遺族のアウトカムであり,緩和ケアの質のアウトカムの1つでもあるといえる。第3回目となるJ-HOPE3研究から,遺族の悲嘆や不眠・飲酒状況なども主の評価項目として追加した。本稿では,J-HOPE3研究の結果から,遺族の悲嘆に関連するおもな結果について紹介する。
ビリーブメントに関わる用語や概念は広く知られつつあるが,必ずしも共有されているとは言えない。本項では,緩和ケアにおいて知っておくべき用語や概念,ビリーブメントケア/グリーフケアの考え方をまとめるとともに,緩和ケアにおけるビリーブメントの位置づけや医療化という視座について論じる。
2008年,国際がん看護セミナー(於東京)でマギーズエジンバラセンター長Andrew Andersonさんがイギリスのマギーズセンターについて話されました。私は,すばらしい活動だと感動しつつ,“遠い国の夢物語”だと思ってそのまま忘れてしまっていました。
がん化学療法に伴う脱毛は,患者が感じる苦痛の1つであり,QOLにも影響を及ぼします。さまざまな抗がん薬により,脱毛を引き起こすことが知られており,脱毛予防のための研究も実施されてきています。そのなかで最も研究が行われているのは頭皮冷却法です。頭皮冷却法は,頭皮を冷やすことにより,血流量を減少させ,毛根への抗がん薬の作用を少なくすることで脱毛を抑制するものです。
【今月のKey Article】
Hui D, Park M, Shamieh O, et al:Personalized symptom goals and response in patients with advanced cancer. Cancer 122(11):1774-1781, 2016 . doi:10 . 1002 /cncr. 29970 .[Epub 2016 Mar 11]
今月は,臨床と研究の両方で,「そもそもなにがどうなったらその治療は成功なのか?」を評価するために用いられる評価指標の研究を扱います。
● 患者の訴えをよく聞き,継続できない理由を明らかにする。
● 口腔ケアの方法を観察し,患者個人にあった方法をともに考え提供する。
● 毎日口腔内を観察するなかで,できていることを評価し患者のやる気を引き出す。
● 無理に勧めることはしない。
● 患者の口腔内の状態によって半夏瀉心湯に工夫を加え,そのときの患者に適した含嗽薬,含嗽方法を提供する。
● 高齢者の幻覚妄想に,抗精神薬に比べ副作用や依存性が少ない酸棗仁湯が有用。
● 幻覚妄想や不眠が出現したらすぐ開始する。
● 併用により,抗精神薬の減量や中止が期待できる。
● 服薬アドヒアランスを常に意識する。
● 副作用の概説を知っておく。