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メサドンをうまく使うコツ(4)
低用量で長期に使用できる患者を早期に見つける

メサドンをうまく使うコツ(4)
低用量で長期に使用できる患者を早期に見つける

本邦でのメサドンの添付文書の効能・効果は「他の強オピオイド鎮痛剤で治療困難な中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛」である。そして,メサドンは現時点で流通規制の対象となっており,処方にはさまざまな制約がある。そのため,本邦での薬価収載から3年が経過するが,メサドンの処方は躊躇されがちである。本稿では,メサドンの開始が遅かったと考えられる症例と適切な時期に開始できた症例について紹介し,その処方開始のタイミングについて述べる。

メサドンをうまく使うコツ(3)
実際の症例から

メサドンは,用量調整が難しく,初回使用量や増量方法に制限が設けられ,心室頻拍/QT 延長を副作用にもつ厄介なオピオイドである。それでも,一度メサドンをうまく使うことができれば,その有用性は捨てがたいものになる。うまく使うコツについて,うまくいかなかった症例も提示し,検討してみたい。

メサドンをうまく使うコツ(2)
メサドンをどう使うか

市販後の2013年4月から2016年7月までの間に,宝塚市立病院で他のオピオイドからメサドンに変更されたがん疼痛の患者69例のうち,用量設定完了に至ったのは59 例である。そのうち,長期投与例,用量設定に至らなかった例,在宅での看取りに至った例について報告する。

メサドンをうまく使うコツ(1)
効果があった事例・ヒヤッとした事例

当院では緩和ケアチームに依頼された疼痛コントロール困難な患者にメサドンを用いてきた。これまでに導入した60余名の経験では,1/3の患者にはよく効き,1/3は少し改善,残りの1/3は残念ながら効かないというのが印象である。悪性腸腰筋症候群では期待以上の効果が得られる。一方,症例を重ねて「メサドンは安全な薬」と油断した頃に,想定外のことも起きた。以下に紹介する。

せん妄を併発した時に抗精神病薬は使用するか?

メサドンを使用する際にQT 延長が起こる可能性があることと,それが薬剤の併用による薬物相互作用により引き起こされることに関しては,メサドンのe-learningを受けられた医療関係者であれば容易に思い起こされる事案であろう。それが故に,使用を躊躇するということも充分に考えられ,ケタミンの併用などで何とか乗り切ることができるということも事実だと思う。今回,上記内容でわれわれが実臨床で経験していることをお伝えすることが,メサドン投与中の患者に抗精神病薬を使用するときの安心材料となれば幸いである。

QT延長は本当にこわいのか?

心電図上のQRSコンプレックスの開始時点からT波が基底線に戻るまで時間を指す。脈拍数の多少よって影響されるQT 値のばらつきを補正した値(QTC)が日常臨床では用いられる。QT 値をQTCに変換する補正式はさまざまなものが存在するが,Bazett 式:QTC=QT(msec)/ が現在臨床現場で採用されている。わが国の自動測定式の心電図機器には,あらかじめこの補正式が組み込まれ,QTCが測定時に自動で記載される。『メサペイン®錠の適正使用ガイド』では,男性と女性の正常上限値はそれぞれ430msec 未満,450msec 未満であり,QT 延長は,QTCが薬剤投与後に25%以上延長するか,500msec 以上となる場合に診断されると記述している。

メサドンとその他のオピオイドとの併用は?

以前,緩和ケアに関する見学のためにカナダのトロント近郊を訪れた際,とある医師から「メサドンは,とてもtrickyな薬だよ。コツをつかめばすごくよい薬だ」と聞かされた。数カ月後,日本でもメサドンが解禁となった。
初めてメサドンを使用した患者さんは,原発不明がんの傍大動脈リンパ節および後腹膜浸潤に伴う尿管狭窄および水腎,両側総腸骨動脈周囲リンパ節転移,両下肢リンパ浮腫の方であった。

メサドンの投与方法─stop and goか3-days switchか

メサドン導入方法には,stop and go( 以下,SAG)と,3‒days switch(3DS)がある。これらの導入方法,換算方法について,使用経験豊富な海外では,Sarsh McLeanらをはじめ多くのSystematic Reviewが存在する。それらを踏まえ,本稿では,患者に合わせたメサドン導入方法について症例検討も含め言及する。

メサドンとは?─基礎知識

本特集でメサドンの臨床上のコツを理解するために必要な基礎知識を簡単にまとめたい。詳細な知識は成書を見ていただくこととして,本稿では「イメージをつかむ」ために必要な要点のみ記載する。

見学では分からない海外事情
ホスピス緩和ケア看護師からナース・プラクティショナーへ―カナダ,ブリティッシュコロンビア州,プライマリケア事情

日本で8年間,看護師として働き,カナダの語学留学へ向かったのは1998年でした。1年の滞在の予定でしたが,雄大なカナダに魅せられ今に至っています。
日本にいた頃から緩和ケアに興味があり,北米で学びたい,という気持ちもありました。カナダで看護師になる前からホスピスやがんセンターでボランティアを始めました。看護師になり,一般病棟,急性期病棟で経験を積んだ後,ホスピス看護師となりました。

仕事人の楽屋裏
高野利実

医学部では,病気の治し方が教えられ,多くの医療者が,死を遠ざけることこそが医療の目的だと思っていますが,そんな価値観のもとでは,治らない病気と向き合う患者さんは,見捨てられているように感じてしまいます。患者さんが生老病死と向き合いながらも幸せを感じられるように,医療者としてできることはないだろうか,というのが,私の出発点です。

落としてはいけないKey Article
ステロイドが呼吸困難に効くかを調べたければどうしたらいいか?

【今月のKey Article】
Hui D, Kilgore K, Frisbee-Hume S, et al:Dexamethasone for Dyspnea in Cancer Patients:A Pilot Double-Blind, Randomized,
Controlled Trial. J Pain Symptom Manage. 2016 Jun 18. pii:S0885-3924(16)30162-2. doi:10.1016/j.jpainsymman.2015.10.023.

今月は,最近の緩和医学の検証試験を理解するうえでいろいろな教訓を伝えてくれる「ランダム化試験だけど実施可能性試験」をみてみます。題材は,呼吸困難に対するステロイドです。呼吸困難に対するステロイドは国内外でよく使われていますが,質の高い研究は実は「皆無」です。

見学では分からない海外事情
アメリカ東海岸でホスピスナースとして働く

もともと訪問看護をしたくて看護師になった私は,保健師免許を取得し,訪問看護ステーションがまだなかった当時,数少ない訪問看護部門のある大学病院で病棟勤務をした。その後,米国でホームケアを学ぶため,1992年にペンシルベニア州フィラデルフィア郊外にある大学に留学した。正看護師の免許取得後,大学院でがん専門看護を専攻し,看護修士を取得。その後,個人経営の小さなホームケア事業所に1年間勤務する。厳しい労働条件のなか,米国のホームケアの基礎を実践で学び,現在勤務するホームケアホスピスに就職。以来,在宅ホスピスおよび,緩和ケアのケースマネジャーとして,今年で18 年になる。また,小児ホスピスナースとしては6 年目である。

仕事人の楽屋裏
大庭 章

大学院の先輩が,国立がんセンター東病院(当時)で臨床心理士の募集があることを教えてくださったのがきっかけです。勤務地が私の故郷にあり,しかも臨床心理士にとって貴重な常勤職の募集でしたので,複数の先輩が私に連絡してくれました(臨床心理士は半数しか常勤職に就けません)。当時はがん医療に携わる臨床心理士が少なかったので,未知の世界のようで魅力的に感じました。さっそく本屋で緩和ケアの書籍を探して読んだのですが,死を前にして働く現場の張り詰めた空気とあたたかさが伝わってきて,患者さんと真摯に向き合う医療者の姿に感銘を受けました。ぜひその一員に入れていただきたいと思い,応募に至りました。運よく採用していただき,その後,静岡がんセンターを経て,現在に至ります。

落としてはいけないKey Article
「スピリチュアルペイン」に対するランダム化比較試験

【今月のKey Article】
Chochinov HM, Kristjanson LJ, Breitbart W, et al:Effect of dignity therapy on distress and end-of-life experience in terminally ill patients:a randomised controlled trial. Lancet Oncol 12(8):753 – 762 , 2011 . doi:10 . 1016/S1470-2045(11)70153-X.[Epub 2011 Jul 6]

今月は,症状緩和に関するインパクトのある研究がすこし途絶えましたので,すこし前の研究になりますが,「スピリチュアルケア」のランダム化比較試験を取り上げます。研究しにくい領域についてもエビデンスを積み重ねていく努力というか,悩みを共有しましょう。2011年ですから今から5年間にLancet Oncolに掲載されたカナダのChochinovの論文です。

緩和ケア口伝ー現場で広がるコツと御法度
腹部膨満感にジアゼパムを使ってみる

● 悪性腹水や腹部膨満感の緩和は難渋することが多い。
● 頻回な腹腔穿刺を要する事例などで,利尿剤やオピオイドの効果も限定的な場合,筋弛緩作用をもつジアゼパムを使用してみる。
● ジアゼパムによる緩和効果と,眠気やせん妄などの副作用を総合的に判断する必要がある。

日本のがん疼痛とオピオイド量の真実
日本と世界のオピオイド消費量

1803年にアヘンからモルヒネが単離されて以来,オピオイドは疼痛治療に不可欠な薬剤であり続けている。モルヒネはWHO(世界保健機関)の必須医薬品にも記載されており,他のオピオイドもWHO 方式がん疼痛治療法で使用される。一方で,50年以上前に公布された麻薬の乱用を防止するための国際条約the Single Convention on Narcotic Drugs(麻薬に関する単一条約)によってオピオイドの使用が不適正に規制されている国がある。このため,緩和ケアが普及していることの指標としてオピオイドの消費量が使用されることがある。