薬剤の特徴
短時間作用性で調節性に富むことを特徴とする脂溶性の薬剤で,無色ないし微黄色透明の液体で特有の臭いがある。化学名は2,6-diisopropyl phenolで,分子量178.27である。エタノール,ジエチルエーテル,ヘキサンなどの有機溶液に溶けやすいが,室温では水には溶けないため,溶媒は脂肪製剤で白色乳濁液である。pHは6〜8.5とほぼ中性で大豆油・濃グリセリン・精製卵黄レシチンを含有する。
無菌で防腐剤無添加の静脈注射薬であるため細菌汚染や感染のリスクを有する。また,脂肪製剤であるので長時間投与により脂肪負荷となる可能性がある。そのため栄養管理上の注意が必要である。鎮痛作用と筋弛緩作用をもたない。
鎮静は治療抵抗性のさまざまな苦痛に対する緩和医療の手段の1つとして認識されている。私は,鎮静を実施するたびに,無力感や負担感を感じているように思う。鎮静開始数時間後に患者が亡くなり,家族から「安楽死させてもらってよかった」と言われた経験や,患者とコミュニケーションがとれないことに怒りを表出した家族への関わりなどが思い出される。
今回,鎮静に関わる看護師の負担感に関する系統的レビュー論文をもとに,看護師の負担を軽減する方法について考えてみたいと思う。
苦痛緩和のための鎮静(以下,鎮静)は,1990年に最初に報告されて以来,さまざまな議論の焦点となってきた。特に持続的な深い鎮静(continuous deep sedation:CDS)は,患者の意識をコミュニケーションができない水準まで低下させ,通常患者が死亡するまで継続されることから,患者に社会的死(social death)をもたらすものである,鎮静が生存期間を短縮させる可能性があることから,「鎮静=緩徐な安楽死(slow euthanasia)」であるとの批判・懸念が根強く聞かれていた。
患者の抱える耐え難い苦痛の緩和を目指し,家族は鎮静における評価・意思決定に関与している。この過程で家族はさまざまな精神的な葛藤を抱えやすく,その家族のつらさを和らげる看護ケアが必要である。わが国における鎮静のガイドラインをもとに,鎮静を受ける患者の家族へのケアについて1事例を通して考える。
適切に緩和ケアが提供されても,なお緩和できない苦痛に,緩和的鎮静(palliative sedation)(以下,鎮静) が世界的に行われている。また,患者の多くは家で最期まで過ごしたいと考えており,緩和ケアの提供される場が,ホスピス,一般病院から在宅に拡がりつつある。鎮静が実施されるおもな症状は,せん妄と呼吸困難,疼痛である。療養の場所によって,国内の調査でも苦痛の緩和を目的とした鎮静の実施頻度は,ホスピス,一般病院,在宅と,療養場所を問わずほとんど同じである。
鎮静における薬物投与に関するガイドラインの系統的レビューでは,MEDLINEの定義に該当するガイドライン9つ(日本のガイドラインを含む)がレビューされた。
1. 鎮静薬
特定の薬物について7つのガイドラインが記されている。そのうち5つではミダゾラムを一般的に,あるいは特定の状況で第1選択薬として推奨し,2つでミダゾラムを最も頻繁に使用されている薬物として記している。世界のガイドラインのミダゾラムによる鎮静の適応,投与方法の比較を表1に示す。
苦痛緩和のための鎮静(palliative sedation:PS)にあたり,患者の安楽を保ちつつ,せん妄,不穏,誤嚥などの有害事象を避けて,過不足なく行なうことが求められる。そのためにはPSが適切に行われているかの評価が重要である。
しかし,PS開始後の効果や有害事象のモニタリング,そのための評価方法に関する研究は数少なく,エビデンスが乏しい。国内外のPSに関するガイドラインを検討しても,PSの定義,開始の適応,薬物の選択や投与法の記載に比べて,PS 開始後の評価に関する記述は不十分で,その推奨内容もまちまちである。日本緩和医療学会『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010年版』(以下,JSPMガイドライン)でも,「推奨と委員会合意」のなかで,「鎮静の開始後のケア」の一部として触れられているにすぎない。
苦痛緩和のための鎮静(palliative sedation therapy:PST)は,ヨーロッパ緩和ケア学会(European Association for Palliative Care:EAPC)では「モニタリング下に鎮静薬を用いて患者の意識を低下させることにより,緩和困難な症状による耐え難い苦痛を緩和すること」と定義されている。実際の臨床現場で終末期の患者に対して実施されているものの,これまでに報告されている実証研究からは,PSTとして行われる行為には多様性があることが示唆される。
本稿では,PSTの適応および意思決定について,各ガイドラインの推奨を比較し,現時点でのベストプラクティス・今後の課題について検討した。
人生を大きく変えてしまうような重大な病を抱える患者さんとそのご家族に寄り添う「緩和ケア」という仕事を,私たちは自らの意思で選択しました。とてもやりがいがあり,たくさんのプレゼントをいただける一方で,患者さんご家族と共に悩み,共に苦しむ中で,時にエネルギーを吸い取られ,時に心が傷つき折れることもあります。心が揺り動かされることの多いそんな職場で毎日奮闘する中で,私たち自身に心の余裕がないと患者さんやご家族の心のケアはとてもできません。
長期に再発治療を行っている患者さんに“生きる目的が分からなくなった”“ 何を目標にすればいいか分からない”と言われた時,腕をさすりながら「大丈夫ですか?」と言う。
診察風景のありきたりの言葉のようだが,この言葉は奥深い。あなたは,今日患者の脈を診た時何か気づくことはなかっただろうか? あなたが「少し脈を診させてくださいね」と言った時,患者はどのような行動をとっただろうか? 脈を診ることで,あなたは患者の心臓の鼓動をどのように感じ取ることができただろうか?
いつの頃からか,臨床で「これは大切だ」と感じられる話を聴いた時,席を辞すにあたり「お預かりします」と言うようになった。毎回ではないが,どの人との出会いにもそうお伝えするのが一番しっくりくる時があるように思う。機を捉えていれば,相手は目を見て頷いてくださる。「お預かりします」が相手の腑にも落ちたことを教えていただく。
「魔法の言葉」というと,「インパクトのある自分から言う言葉」と,「インパクトはないけど,言葉の背景にある態度を普遍的に表す言葉」とがあるのだと思う。いくつか思いついた前者の言葉は横に置き,後者からひとつ選択した。
「へえ↑どうして?」に込めた筆者の意図は,何事にも理由がある,何が普通かは分からない,言葉と意図は違うことがある,といったところである。
患者を医療者として支援するためには,患者との信頼関係なしでは始まらない。渡部は信頼構築するための重要な要素は,相手への純粋な関心を示すことであり,それは誠実さや相手を尊重する態度に現れると述べている。この言葉には,相手を知りたいという自分の素直な気持ちを表現し,自分の判断を加えず,相手をありのまま尊重して理解しようとする態度を患者に示し,その結果患者との信頼関係の構築をしようとする筆者の意図が込められている。
「儲かってまっか?」「ぼちぼちでんな」で有名。「まあまあ」であったり「そこそこ」の状態であることを指すが,行動や作業,業務に対して,「のんびり」「焦らずに」「少しずつ」といったニュアンスを伝えるのにほどよい言葉である。
この言葉には2つの思いがあります。「大丈夫!」と「大丈夫?」。「大丈夫!」は,「自信をもっていいよ。さあ,頑張ろう」という相手に対しての承認や保証をして,背中をポ〜ンと押しているような言葉。「大丈夫?」は,相手の顔を覗き込むような感じで「心配してるよ,気にかけているよ」というメッセージをもった言葉。
「笑う」は,うれしい,おかしいなどの気持ち(感情)の表現の1つである。「笑って過ごせるようにお手伝いさせてください」に含まれるメッセージの意図は,今,感じている苦しみ,寂しさ,悲しみなどの「気持ち(感情)」への「共感」を示す。がんの症状や,抗がん治療による苦悩,厳しい病状説明,入院環境の苦難の中で,患者は,いろいろな「気持ち(感情)」を体験する。「笑って過ごせるようにお手伝いさせください」は,医療者として,人として,「気持ち(感情)」へのケアに焦点をおいた言葉であると考える。
(あぁ,なんかうまくいかない…,「見る,観る…」)筆者の心のつぶやきである。筆者にとって,このつぶやきは,医療者のための「診る」をしないための「戒め」の言葉である。
15年ほど前のこと。まだ,緩和ケアチーム診療加算は設定されておらず,緩和ケアといえば,最期近くなって緩和ケア病棟で過ごすための終末期医療だった。
急性期病院の中で緩和ケアのコンサルテーションを開始した筆者に,これから化学療法を開始する26歳の卵巣がんの患者さんが訪ねてきてくださり,こんなふうに話された。
この言葉は,古代中国の書物「易経」にある言葉の一部を平易に読み下したものである。正しくは,『天行健。君子以自彊不息』と記され,「天行健なり。君子はもって自ら彊(つと)めて息(や)まず」と読む。意味は,「天体の運行(天行)は,宇宙の誕生以来,常に規則正しく動き,時を刻み,太古から現在に至るまで,今まさにこの瞬間も休みなく,整然として正しくめぐり,誠に健やかである。人々の上に立つ君子たるものは,この健やかな天の運行を範とし,自ら努め,学問に励み,職務を全うし,怠ることなく規則正しく健全であるべきである」とされている。