私は慶大卒業後に直接,リハビリ医学教室へ入局しました。まもなく始まる専門医制度では,リハビリ科は基本領域に位置づけられ,専門医も2000名を超えるまでになりましたが,その当時は講座を有する大学は全国的にも少なく,専門医の数も少ない状況でした。そのようななかで,なぜリハビリ科を選択したのか,とよく訊かれるのですが,学生のときに各科に配属されて研究を行う“自主学習”というカリキュラムでリハビリ科を選択したのがきっかけでした。千野直一教授をはじめ医局の先生方は新しい分野にチャレンジしようという熱意にあふれた方々ばかりで,そのような環境の中で徐々に感化されたのだと思いますが,既存の医学で扱われてこなかった“障害”にアプローチする新しい医学であること,今後深刻な問題になるであろう高齢化社会のなかで,その領域の専門医は必要不可欠になる(その当時は介護保険も回復期病棟もない時代でした)ことを実感し,入局を決意しました。
【今月のKey Article】
Mercadante S, Adile C, Cuomo A, Aielli F, Cortegiani A, Casuccio A, Porzio G:Fentanyl Buccal Tablet vs. Oral Morphine in Doses Proportional to the Basal Opioid Regimen for the Management of Breakthrough Cancer Pain:A Randomized, Crossover, Comparison Study. J Pain Symptom Manage 50(5):579-586,2015 doi:10.1016/j.jpainsymman.2015.05.016.[Epub 2015 Aug 22]
今月は,粘膜吸収性フェンタニルは指摘投与量を決定するためのタイトレーションは本当に必要か? に関する比較試験を扱います。
● 一般的な緩下剤で排便コントロールが難しいとき。
● 多剤,剤型などで内服コンプライアンスが不良なとき。
● 食事,飲料に混入でき,意識せずに服用できる。
● 難点は,食品のため外来加療時は自費購入になること。
● 口腔ケア用品として市販されている保湿剤,洗口液は甘味やミントの香りが含まれていることが多く,好みの差があるため,継続使用が困難なケースがある。
● 甘味やミント臭の少ないケア用品の材料としてローズウッドオイルを使用した。
● 口腔ケアを継続するため,嗜好に合った用品を選択できることが望ましい。
● 対症療法が基本となる。持続吸引なども検討する。
● 薬剤性の唾液分泌増加を避ける。抗コリン薬の副作用には注意が必要。
● ブチルスコポラミンよりもプロバンテリンは強い効果を実感できる場合がある。
● 眠気を避けたい,車の運転をしたい患者での鎮痛補助薬として。
● ケタミン中止後,痛みが再燃する場合に。
● 投与後の効果が明確なら継続,不明確な場合は中止,痛みが再燃するなら再開。
「患者さんを生活者として捉えること,これはソーシャルワーカーの正司さんから教えられたことです」
1992年に山口赤十字病院で取り組み始めた緩和ケアの理念について,末永和之先生が病院スタッフに説明された時の言葉です。
当時のソーシャルワーカーは,国家資格保有者も少なく,チーム医療も確立していない時代での配属でした。この言葉は,私にとって専門職として,チームの一員として,患者主体の医療やケアを提供するという重いミッションを駆り立てるものでした。
せきは気道内の痰や異物を喀出するための重要な生態防御機能である。せきは,がん患者の治療開始時に42.9%で認め,肺がん患者では診断時に65%以上で認めると報告されている。
持続的なせきは,食欲不振,頭痛,嘔吐,失神,めまい,発汗,疲労,肉離れ,肋骨骨折,尿失禁などを起こし,患者のQOLを低下させる。また,電話での通話困難,困惑,気まずさ,社会的孤立などを生じ,心理・社会的な影響も及ぼす。
筆者が勤務するAホスピスは,カナダ西部アルバータ州に位置する人口120万人都市カルガリーにあります。カルガリーには,6つのホスピスがありますが,Aホスピスはその中でも成人末期患者用ベッド20床を抱える大きめの独立型ホスピスです。
Aホスピスは,interdisciplinary team(合同チーム)アプローチによるホスピスケアを提供しています。
ストーマ周囲の皮膚障害で痛みと便もれに苦しむ患者さんを前に,何もしてあげられなかった体験から,知識と技術を身につけたいと思い,皮膚・排泄ケア認定看護師になりました。当初は誰が見てもわかる創傷やストーマのトラブルが改善することに,とてもやりがいを感じていました。それから10数年後のある日,直腸がんで骨盤,肝臓,肺に転移し,緩和的にストーマを造設した30代の男性に出会いました。
【今月のKey Article】
Maeda I, Morita T, Yamaguchi T, et al:Effect of continuous deep sedation on survival in patients with advanced cancer( J-Proval):a propensity score-weighted analysis of a prospective cohort study. Lancet Oncol 17(1):115-122. 2016. pii:S1470-2045(15)00401-5. doi: 10.1016/S1470-2045(15)00401-5.[Epub 2015 Nov 29]
今月は,鎮静が生命予後に与える影響に関する日本からLancet Oncologyに掲載された論文を扱います。
● 栄養を摂ることは,簡単にあきらめきれないことのひとつである。
● QOLを考え,単に栄養を摂るということだけでなく,「食を楽しむ」ということへの配慮をする。
● 栄養剤を飲みやすくするための工夫をする。
● 栄養剤を飲めない人には,一般市販品で栄養価の高いものを勧める。
● 緩和ケアでも必要カロリーの充足を目標とする。
● まずは食事で工夫するが十分でない場合は栄養剤を取り入れる。
● 経腸栄養( 経口摂取・経管栄養)が第一だが,消化管が使用できない場合は静脈栄養を考慮する。
● 栄養剤は含有成分がよくても継続して摂取しなければ意味がないので,成分よりも好みに合うものを優先する。
● 一つの栄養剤を摂取し続けると飽きるので複数の栄養剤を取り入れる。
● 栄養剤と他の飲み物をブレンドし好みの味に近づける。
● 従来は,甘い栄養剤がほとんどであったが,甘くないスープ味の栄養食品が増え,選択肢が広がった。
● オメガ3系脂肪酸やカルニチンなどを含む栄養剤も市販されており,症状の軽減を目的に試す選択肢がある。
● 患者さんの意向や飲みやすさ,味,栄養成分など会話のなかで総合的に判断し,勧めることが必要であろう。
人間は矛盾体だと思う。産まれた時から,死を宿命として抱える。人間に限らない,生物は皆,矛盾体。生物に限らない,きっと地球も矛盾体,星々も。だから患者さんも,「生きる」と「死ぬ」の両方を口にする。言葉は人間の矛盾を表現するために,存在していると思える時さえある。
近年,死別への関心が高まったこともあり,世界保健機構(2011)やがん対策推進基本計画(厚生労働省,2012)は,遺族ケアの必要性を提言している。死別後,多くの遺族は悲しみ,不安,不眠などの精神症状を呈するが,その後は自然に回復し日常生活へと復帰してゆく。しかし,長期間にわたって精神・身体面の不調を訴える遺族も少なくない。遺族の精神症状は,(1)正常な悲嘆,(2)うつ病,(3)複雑性悲嘆に大別され,それぞれに注意が必要である。
せん妄は,終末期には患者の30~40%に認められ,死亡直前においては約90%がせん妄の状態にあると考えられ,頻度が多い症状であり,看護師が対応に苦慮することも多い。医療者や家族が感じた,何かいつもと違って,おかしいという違和感をそのままにせず,アセスメントし,アセスメントに応じた早期の対応につなげることが大切である。せん妄を適切にコントロールすることは,患者との意思疎通を確保し,症状の緩和を進めるだけでなく,患者の意向に沿った治療を提供するうえでも大切である。
せん妄は意識障害が中核症状であり,脳機能および行動面において様々な影響が現れる。身体治療の現場において高い頻度で認められ,医療者のほとんどが遭遇する病態であるにもかかわらず,見過ごされていたり,発見が遅れることがしばしば起こる。なかでも低活動型せん妄は,過活動型せん妄に比べて活発な症状に乏しいため,より見過ごされやすく,抑うつ状態と間違われることも非常に多い病態である。本稿では,臨床現場で見逃されやすい低活動型せん妄について,そのインパクト,診断のポイント,治療やケアについて概説する。
1週間を超えてせん妄が遷延した患者群(1,121例)は,1週間以内にせん妄が収束した群(1,332例)に比べて,低活動型せん妄の割合が有意に大きく(10%対5%,p<0.0001),死亡率も高かった(21%対11%,p<0.0001)と報告されている。それにもかかわらず重篤な有害事象の出現率はともに0.9%(10例対12例)で差がなかった。つまり,せん妄が遷延している難治の症例において,何をしても興奮が収まらないのではない。臨床的にも興奮が強いせん妄が週単位に続いて対応に苦慮する機会はほとんどない。
夜勤に出勤し,「○○さん,不穏です」と申し送りを受けたら,正直よい気持ちはしないのではないだろうか。せん妄が悪化する夜間は,看護師の人数は少ないが,患者の容態が変わりやすかったり,不安な気持ちを語りだす患者が現れたりして,時間にも心にも余裕がないことがある。時間や仕事量によるプレッシャーは,看護師によるせん妄の認知やアセスメントのバリアとなり,過小評価や不適切な対応の原因となりうる。一方,過活動せん妄の患者では,ライン類の自己抜去や転倒・転落→インシデント・レポート,という嫌な予感がよぎり,「騒がないで,早く眠って!」と,頓用指示の薬剤をひたすら投与してしまうかもしれない。