医療ソーシャルワークでは,何よりクライエントである患者・家族の主体性を重視する。彼らが病いにどのように向き合い,傷つき,対処しようとしているのかを知り,1 人ひとりの取り組みにおける生活課題について,患者を取り巻く環境にあるさまざまな社会制度を活用して支援するのが,医療ソーシャルワーク実践の特徴の1つであるといえる。
本稿では,YA 世代が活用できるさまざまな社会制度の中でも特に,医療費助成や福祉制度などといった社会保障制度を示し,その利用方法などについてまとめることを目的とする。その際に,患者・家族がそうした制度的資源をいかに活用しうるかについても,極力触れながら論を進めたい。
若年成人期(young adult; 以下,YA 世代:20~30 歳代)は,成人としての自立に向けて心身ともに安定していく時期であるが,親の保護下から独立し,社会人としての役割を果たすにあたり,社会生活の変化に伴う課題の多い時期である。また,YA 世代の親(50~60歳代)は,向老期にあたり,自身の心身の変化や子どもの巣立ちで,寂しさや焦りを感じたり,親の扶養や介護などの問題に直面することが多い。
YA 世代のがん患者は,「自立した成人」と「向老期の親の子ども」としての両側面の役割をもち,療養に伴う重要な意思決定にあたっては,患者の意向とともに,親の意向に左右されることが多い。
若年成人がん患者のパートナー(以下,パートナー)は,患者と同じyoung adult世代(以下,YA世代;20〜30歳代)であることが多い。この時期には,青年期に獲得したアイデンティティをもって他者を愛し,親密さを育んでいくと同時に,社会生活や家庭の中で,できうることに意味を見出し,生産性(生殖性)を志向する。課題を達成できれば,他者との親密性を獲得し,子どもを次世代につなぐことができる一方で,発達危機として,孤立や停滞が起こることもある。
本稿では,多くの課題を抱える若年成人がん患者のパートナーの特徴と,パートナーへのケアについて概説する。
家族は,「第2の患者」として支援が必要な対象者であることが唱えられてきた。しかし,患者の家族成員に成人期を迎えていない子どもが含まれていた場合,子どもは支援の対象には入れられず,その対応は家族に任せられてきた。しかし実際には,子どもも家族の一員であり,親ががん患者として闘病していることにより,影響を受ける存在である。さらに,患者や家族も,子どもへの対応を悩みながら闘病生活を送っている現状がある。そのめ,家族支援において,成人期を迎えていない子どもを含めてケアすることは,患者側からも重要なニーズである。
“がん”というと,中高年の病気と捉えがちで,実際若年成人期でがんになる人は多くはない。だからこそ,がんになった本人をはじめ,家族も同様に危機に陥る。
仕事に就いてようやく一人前になって,結婚しようと考えたり,子どもができた人もいるだろう。親は大人になったわが子と「子離れ」の課題を抱えつつ,老いを迎える自分の課題に向き合うことが求められる時期でもある。そのような時に,ある日突然,若くて元気だったわが子が“がん”の宣告を受けてしまう。「まさかうちの子が」と,青天の霹靂で,容易に受け入れられるものではない。「代われるものなら代わってやりたい」と多くの親が思うだろう。
young adult(以下,YA世代:20〜30歳代)は,自らが描く可能性を,現実の自分の置かれている場と照合し吟味しながら,その具体的実現に向けて動きだそうとする,あるいはすでに動き始めている時期である。がん罹患は,それまでの流れを遮り,治療中やその後の生活を根本から変えるほどの衝撃を与える。
本稿では,YA世代全般に通底している〈察する〉というテーマについて考えたあと,YA 世代を大きく3つのグループ〈20歳代前半〉〈20歳代後半から30歳代〉〈子育て世代〉に分けて,各年代における特徴を取り上げていきたい。
近年,adolescent and young adult(以下,AYA)世代のがん患者(15〜39歳)の生存率や,生活の質(QOL)向上に向けたさまざまな試みが,国際的に活発になってきた。この背景として,AYA世代のがん患者は,「過去30年間で生存率の向上がみられない唯一の年代であること」「発達段階に関連する独特な生物学的・心理社会的特性が示唆されているにもかかわらず,支援が不十分であること」などが,明らかになったことが挙げられる1)。
本稿では,AYA 世代の中でも特に,若年成人がん患者(20〜30歳代)についての特徴を述べ,次に若年成人がん患者の緩和ケアや終末期ケアについて,臨床家が知っておきたい知見について概説する。
マクミランナースとは,マクミランキャンサーサポートというチャリティ団体が国の医療サービス(NHS;National Health Service)に資金を提供して作られた役職に従事するナースの名称である。緩和ケアだけでなく,種々のがん(肺がん,消化器がん,婦人科系のがん,血液関連など)を専門とするマクミランナースもいる。マクミランナースになるには,看護師経験が5年以上で,そのうち「がんまたは緩和ケアの経験が2年以上あること」「専門分野での学位を保持」または「大学院への進学の意思がある」「薬を処方することのできる資格の保持(イギリスでは専門的なトレーニングを積むことにより,看護師であっても薬を処方できるようになる)」「マネージメント経験があること」が望ましいとされている。
高校時代に,「人間の生きる意味は何か?」について疑問をもち,いくつかの宗教書や哲学書を読みました。また,自分はいわゆるサラリーマンになって企業の利益のために生きるのは向いていない性格(後述します)であることを加味し,「人間に関わる仕事をしたい」と考えるようになり,当初は高校教師になろうかと考えた時期もありました。しかし,「人間理解に最も近い仕事を」と考え,高校3年生の時に,医師になることを決意しました。
筑波大学1年生の時の医学セミナーで,紀伊國献三先生(現 笹川記念保健協力財団会長)のゼミ「21世紀の医療を考える」に参加し,そこで,当時開設したばかりであった聖隷三方原病院ホスピスや,淀川キリスト教病院ホスピスを見学させていただきました。また,在宅医療の現場として,この道のパイオニアである佐藤智先生,紅林みつ子先生の診療・看護をみさせていただき,ホスピス・緩和ケアに強い興味を抱きました。
【事例】
〔患者〕
Jさん,60歳代前半,女性
〔家族〕
同世代のご主人と2人暮らし。ほかには独立した子どもが2人,それぞれ近県で家庭をもっている。Jさんも家族も,「今回の化学療法が無効の場合は厳しい見通しである」との説明を受け,理解している。
〔経過〕
1年前に,肺腺がん(がん性胸水でstage IV)と診断。ゲフィチニブを開始したところ,胸水が著減,以降分子標的治療薬で,長期にわたり病勢をコントロールできいていたが,1カ月前に肺内多発転移を認め,化学療法へ変更となった。
ペメトレキセド単剤投与が1コース行われたが,2コース目の直前に呼吸困難が出現。画像上,胸水貯留は著明でなかったが,転移巣の増大と増加,びまん性の間質性陰影を認め,がん性リンパ管症の診断で緊急入院となった。
入院後行われたパルス療法の効果はなく,オピオイドやベンゾジアゼピン系薬でも症状は緩和されなかった。緩和ケアチームの介入時,すでに酸素10L /分(リザーバーマスク)下でSpO2は80%台と,著明な呼吸不全であった。呼吸は促迫していて,起座位で「苦しい」と答えるのが精一杯の状態である。
主治医は,原病はもちろん,今ある呼吸不全の改善も困難と判断し,終末期の苦痛緩和のためには鎮静しかないと考えている。緩和ケアチームへの依頼目的は,鎮静の方法についてであったが,適応を慎重に考えるために,倫理カンファレンスを行うこととなった。
【今月のKey Article】
Kutner JS, Blatchford PJ, Taylor DH Jr,Ritchie CS, Bull JH, Fairclough DL, Hanson LC, LeBlanc TW, Samsa GP, Wolf S, Aziz NM, Currow DC, Ferrell B, Wagner-Johnston N, Zafar SY, Cleary JF, Dev S, Goode PS,Kamal AH, Kassner C, Kvale EA, McCallum JG, Ogunseitan AB, Pantilat SZ, Portenoy RK, Prince-Paul M, Sloan JA, Swetz KM,Von Gunten CF, Abernethy AP:Safety and benefit of discontinuing statin therapy in the setting of advanced, life-limiting illness; a randomized clinical trial. JAMA Intern Med 175:691-700,2015
「やめどき」は,緩和ケア(というかターミナルケア)において,非常に重要なテーマです。今年(2015年)の本誌増刊号でも特集しましたように,緩和ケアでは「いつまで続けるべきか」「いつやめてもいいのか」は切実な問題です2)。
「糖尿病の薬はいつまで続けたらいいのか」「胃潰瘍の薬は,高血圧は…」より終末期だと,「痙攣の予防薬を飲めなくなったらどうするか」「ステロイドはどうするか(日本だと注射に変えている施設が多いと思いますが,外国では内服できないとそのままやめる場合もあります)」「NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)使用時のPPI(プロトンポンプ阻害薬)はどうするか…」最近少し話題になったテーマでは,「経口抗がん剤(分子標的治療薬)はどうするのか…」(タルセバは継続した方がいいとの比較試験があります。)
このように,「やめどき」には多くのテーマがあり,切実な課題である割に,ほとんど分かっていません。今月は,高脂血症治療薬を終末期に中止する群と継続する群とを比較した無作為化比較試験を紹介します。
今回は,在宅療養を始めるにあたって,「種々の症状がある患者に対応する際,緊急使用の可能性がある」もしくは「事前に準備してあると役立つ薬剤」について紹介する。
がんの診断を受けた多くの人々は,生命を脅かす深刻な病気であると認識して生活している1)。このような患者や家族にとって,病棟で亡くなった方のお見送りに遭遇することは,自らもいずれ死を迎えるのだと,改めて意識する体験となり,精神的に動揺する可能性がある。
このような体験をした患者や家族に,どのように声をかけるかについては,看護師も悩むところだろう。
在宅の分野ではよく知られていることであるが,在宅で点滴などの医療行為を行う際には,まず制度の面から整理する必要がある。なぜなら,「適切な保険制度を選択すること」が,ケア体制のづくりに大きく影響するからである。
終末期患者における「かゆみ(掻痒)」は,患者がそのせいで「眠れない」など,多大な苦痛をもたらす症状である一方で,一般的な掻痒感に対する対応(たとえば,抗ヒスタミン薬やステロイドの外用や内服)では,改善しない場合も多く,われわれもしばしば悩まされる症状の1つである。
【症例】
F氏,80歳代,男性。
尿閉を主訴に受診し,前立腺がんと診断された。経直腸的前立腺生検の結果,高リスク(cT1cN0M0,Gleason スコア8*1),PSA*2)10.69ng/mL〈D’Amico分類*3),NCCN分類*4)〉)に分類された。ホルモン療法(アンドロゲン遮断療法:androgen deprivation therapy;ADT)として,カソデックス®(ビカルタミド)錠服用を6カ月行ったあと,放射線治療を勧められた。
1日排尿回数10回以上で,夜間も2~3回トイレに起きる。前立腺肥大治療薬(ハルナール®〈タムスロシン〉)を服用しており,尿意切迫や排尿困難はない。便秘がちだが,酸化マグネシウムで調節し,毎日排便あり。ホットフラッシュはない。
妻と娘との3人暮らし。日常生活動作は自立し,内服薬も自己管理可能である。医師や看護師の説明を理
解することはできるが,忘れっぽいところがある。
不眠障害は,DSM–5*1)において,睡眠–覚醒障害群に分類され,睡眠の量または質の不満に関する顕著な訴えが, ①入眠困難,②頻回の覚醒,または覚醒後に再入眠ができない,③早朝覚醒があり,再入眠ができないといった不眠症状の1つ(あるいはそれ以上)に伴っていることに加えて,これらの症状によって,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,教育的,学業的,行動上,またはほかの重要な領域における機能の障害を引き起こしていることが,頻度(週に3回以上),持続期間(3カ月以上),鑑別疾患(ナルコレプシー,睡眠時無呼吸症候群,レストレスレッグズ症候群など),などその他の6項目の評価も含めて満たした場合に診断される1)。
本稿では,症状緩和のために消化管の消化液をドレナージする場面について,腹壁に形成された瘻孔などの管理と,体内にチューブを挿入するような胃管・胃瘻・腸瘻などの管理の2つの視点で述べる。
悪性消化管閉塞患者に対するケアの工夫 がん終末期の消化管閉塞における患者・家族の心理的支援─栄養摂取と症状緩和の狭間で生じる患者・家族の葛藤をどうケアするか
がん終末期の悪性消化管閉塞では,医学的に考えると,絶飲食が症状緩和につながる事例も多い。しかしながら,患者や家族は栄養摂取を望むことも多く,「食べないと死んじゃう」「分かっているけど食べたい・食べさせてあげたい」と切実な思いを抱いている。患者や家族は,栄養摂取と症状緩和の狭間で葛藤する。医療者も,患者が食べると症状が悪化するため,医学的な判断を優先すべきか,患者の自律や家族の希望を優先させるべきか悩む。
本稿では,このような葛藤をどのように捉え,ケアすべきか,考察したい。
悪性消化管閉塞に対する消化管ドレナージの工夫 悪性消化管閉塞に対する非薬物療法の位置づけ─消化管減圧を目的とした経皮内視鏡的胃瘻造設術と経皮経食道胃管挿入術
悪性消化管閉塞は,がん患者に悪心・嘔吐を生じさせ,QOLを低下させる要因である。悪性消化管閉塞に対する非薬物療法としては,「手術(切除・バイパス術)」「内視鏡的ステント留置術」など,消化管内容物の通過再開を目的とするものと,消化管ドレナージの手段として,「経鼻胃管・イレウス管留置」「経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy;PEG)」と「経皮経食道胃管挿入術(percutaneous transesophagealgastrotubing;PTEG)」がある。
本稿では,これら非薬物療法の中でも,「経鼻胃管・イレウス管留置」と,「PEG・PTEGによる消化管ドレナージ」の役割や注意点を中心に述べる。