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緩和ケア口伝―現場で広がるコツと御法度
腎不全があってもモルヒネを使う場合

緩和ケア口伝―現場で広がるコツと御法度
腎不全があってもモルヒネを使う場合

● 腎機能が低下すると,モルヒネの代謝産物が蓄積されやすくなり,副作用が発現しやすくなるため,慎重な投与が必要となる。
● 腎不全があってもモルヒネを選択するのは,原則的に,呼吸困難の緩和を目的とする場合である。
● 腎機能低下時には,持続皮下注射または持続静脈注射での投与が推奨され,投与量は一般的な投与量の半量から開始する。

いま伝えたいこと―先達から若い世代に
エリートのケアから手の届くケアへ

 「今,イギリスに行っても何も新しいことを学べない」という大先輩の忠告にもかかわらず,ロンドンに留学したのは,なんと43年前の1973年のことでした。訪問看護のコース終了間際に,「日本に帰る前に,新しいことを見学しませんか」と,訪問看護指導師長に勧められ,1975年に,聖ジョージ・ホスピスを訪れました。当時の日本には,まだホスピスの情報は届いていない時でした。

認知症のあるがん患者へのケアのコツシリーズ
認知機能低下のあるがん患者の苦痛の評価

 社会の高齢化に伴い,認知症の有無にかかわらず,認知機能低下のあるがん患者の数も確実に増加している。緩和ケア病棟入院患者も例外ではない。東京都健康長寿医療センター(以下,当院)での1例を振り返り,認知機能低下のあるがん患者の苦痛緩和について考える。

認知症のあるがん患者へのケアのコツシリーズ
認知症患者のオピオイドと抗がん剤指導における服薬管理のコツ

  近年,ジェネリック品(後発薬)の使用推進に伴い,少しでもジェネリック品との差別化を図ろうと,薬価は据え置きで,ブランド品(先発薬)に製剤学的な付加価値をつけることが多くなってきている
(product life cycle management; PLCM)。一方,ジェネリック品もそれに対抗,または他社のジェネリック品との差別化を図るため,同様に製剤学的な付加価値をつけている製剤がある(valueadded generics;VAG)。このように,お互い競争することで,「服用しやすさを追求した製剤」の水準が,飛躍的に高まっている。
 本稿ではまず,介護者が服薬管理しやすい剤形について解説し,次に,その具体的なオピオイド・抗がん剤について紹介することとする。さらには,認知症患者に処方するうえでの注意点について述べる。

認知症のあるがん患者へのケアのコツシリーズ
食べられない時のアセスメント―悪液質と思ったらそうではなかった…。

 私たちにとって,食べることは当たり前の機能であるがゆえに,認知症患者のその障害になかなか気づくことができず,見過ごされてしまうのである。
 ところで,“認知症患者”というと,あなたは何を思い浮かべるだろうか。まず,いわゆる“物忘れ”だろうか。しかし,認知症患者で,食べる際に障害となることは,物忘れだけではない。
 たとえば,以下のような障害がある。

認知症のあるがん患者の緩和ケア
終末期がん患者で認知症を合併している場合の療養場所の選択―意思決定支援と使用可能な社会資源

 疼痛コントロールなどは,認知症による物忘れや妄想による服薬拒否などで,痛みの把握や服薬管理など,スムーズにいかないことも多い。症状コントロール不良による不快感から,BPSD(behavioraland psychological symptoms of dementia:行動・心理症状)などが引き起こされてしまうことある。私たちには,患者の症状マネジメントを行いながら,患者らしく生活していくための環境調整,意思決定支援をする役割が求められている。
 本稿では,終末期がんで認知症を合併している患者の療養場所について,どのように意思決定支援をしていけばいいのか,どのような療養場所や社会資源があるのかを考えてみたい。

認知症のあるがん患者の緩和ケア
緩和ケアにも役立つ,優しさを伝える技術―ユマニチュード

 ユマニチュードのケアで重要なのは,「あなたは大切な存在である」と伝え続けることである。ケアをする人がどんなに優しい気持ちであったとしても,ケアを受ける人に受け取ってもらえなければ,意味がない。届けるための具体的な技術が必要であり,それがユマニチュードの4つの柱 「見る・話す・触れる・立位援助」と「ケアを行う5つの手順」である。
 人のすべての行動には,言語的・非言語的なメッセージが含まれている。コミュニケーションで言語の占める割合は7%であり,残りは非言語によるという報告がある3)。これは,ケアの場においても同様である。ユマニチュードを用いたケアの実施にあたっては,「あなたはここに存在する」こと,そして「あなたは私にとって大切な存在である」ことを言語的・非言語的なメッセージとして,常に複数の技術を使いながら継続的に伝え続ける。

認知症のあるがん患者の緩和ケア
がん緩和ケアに応用できる認知症患者の体験の理解

 認知症疾患を合併しているがん患者に対応する医療従事者では,さまざまな場面─患者が,がんの診断を受ける時,治療を行う時,予後の告知を行う時など─において,「果たして患者は説明内容などを理解することができているのか」「どのような気持ちでいるのか」「対応はどのようにあるべきなのか」などということについて,多くの考えを巡らせることもあるのではないだろうか。
 本稿では,このような認知症を合併しているがん患者の体験を理解しながら,患者の体験に寄り添うケアについて考えてみたい。

認知症のあるがん患者の緩和ケア
がん緩和ケアに応用できる認知症の薬物療法

 コリンエステラーゼ阻害薬は,認知症の中核症状の改善には有用であるが,投与初期に,悪心・不眠・焦燥感などの副作用が比較的高頻度にみられ,せん妄への予防や介入に対しては,否定的な研究結果が多い2, 3)。また,同薬は,報告は少ないものの,実臨床ではパーキンソニズムの出現,増悪も散見される。よって,身体症状が重篤である場合,すでにせん妄などに対して抗精神病薬が使用されている場合,レビー小体型認知症と診断または疑いがある場合には,コリンエステラーゼ阻害薬継続には,慎重な判断が必要である。
 したがって,緩和ケアの臨床場面でのコリンエステラーゼ阻害薬は,認知機能改善薬としての積極的な使用方法ではなく,「効果に乏しければ中止を検討すべき薬剤」となることのほうが多い。
 本稿では,各薬剤の特徴と使用法の注意点,さらに緩和ケア領域での特有の使用方法について,いくつか紹介する。

認知症のあるがん患者の緩和ケア
がん緩和ケアに応用できる認知症ケア―「じっとしていられない」「食事をしたがらない」などへの対応

 認知症専門外来にいた頃,「いつからウロウロと徘徊しますか?」「いつから誰かに物を盗られたと周りを疑うようになりますか?」と,よく家族に尋ねられた。また,看護師からも,「認知症の人は徘徊や興奮が多く,普通の病棟では難しい」と言われてきた。
 しかし図11)からも分かるように,徘徊や妄想,攻撃性などの周辺症状(behavioral and psychological symptoms of dementia;以下,BPSD)は,環境変化,ストレス,不安,疼痛や便秘,掻痒感などの身体症状が引き金となって起こるものであり,認知症をもつ人が皆,起こす症状ではない。言い換えれば,徐々に言葉でうまく苦痛や不安,不自由を訴えることが難しくなる認知症をもつ人にとって,BPSDはSOSのサインと捉えることができる。
 本稿では,「じっとしていられない「食事や入浴をしたがらない」「疑い深くなる」 の3つの現象を取り上げ,その背景にあるものを考えながら,対応のヒントを述べたい。

認知症のあるがん患者の緩和ケア
認知症なのかどうか,診断に苦慮する患者のアセスメント―がん患者の場合の鑑別方法と実践例

 がん患者の診療現場では,記憶障害などの認知機能低下はあるが,認知症か判断が難しいことが多い。つまり,認知症の主症状である記憶障害は,せん妄・薬剤・うつ病など,種々の原因でも起こりうるため,認知機能低下=認知症と判断することはできない。そのため,がん診療で起こりうるさまざまな原因を検討したうえで,DSM-5*1)の診断基準(表1)1)などで判断する必要がある。
 そして,がん治療,がん緩和ケアにおいて,「認知機能低下=認知症」とした場合,その後の意思決定やマネジメントを誤らせる可能性がある。そのため,認知機能低下が認知症に由来するものか,可逆性の原因によるものなのかということを考えることは,がん患者の診療現場では,重要な臨床判断になる。
 本稿では,がん治療,がん緩和ケアの現場において,現在起きていることが,「認知症か,もしくは認知機能の低下によるものであるか」判断が難しい場合の対応について解説する。

「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
悪性消化管閉塞に対するオクトレオチド

 オクトレオチドを含む薬物療法の効果が得られない場合に,中止の判断をすることは,比較的容易である。しかしながら,ある程度効果がありそうで症状が落ち着いている場合,いったん開始した薬剤の減
量や中止の判断は難しく,漫然と投与が継続されいることも多い。保険適応の投与方法は,持続皮下投与とされているため,ADL 向上や在宅移行のバリアとなることもあり,また特にオクトレオチドは高価な薬剤であり,医療費の問題も生じる。
 これまで,明確な減量や中止の判断基準は明らかにされておらず,本稿ではその目安や手順についてお示しする。

「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
輸血(赤血球・血小板)のやめどき─在宅や緩和ケア病棟など,療養場所の検討へも影響がある場合

 終末期患者において,血液疾患や出血のみならず,慢性炎症など,さまざまな原因によって,貧血・血小板減少が進行することは,頻繁に起こりうる。輸血依存性の患者さんにとって,輸血は広義の延命治療になりうる。同時に,療養の場所によっては,輸血実施が困難であるため,輸血の有無が終末期の過ごし方に,大きな影響を与えてしまっている。

「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
経口分子標的治療薬

 がんに対する研究もめざましく進歩しており,たとえ進行・再発がんであっても,予後は飛躍的に延長している。特に,ある遺伝子変化によりがん細胞の生存に有利な細胞内情報伝達の活性化がもたらされ,増殖しているがん遺伝子中毒状態(oncogeneaddiction)であり,それらに対する選択的な分子標的薬のあるがんの場合は,顕著である。
 たとえば,EGFR*1)遺伝子変異陽性肺がんや,ALK*2)融合遺伝子陽性肺がん,HER2*3)陽性乳がん,慢性骨髄性白血病(ABL*4)転座)などが挙げられる。
 また,これらの分子標的薬の有害事象は,元来使用されていた殺細胞性抗がん剤と異なり,吐き気や嘔吐などの消化器毒性や全身倦怠感,脱毛などは軽微であり,quolity of life(QOL)は維持されることが特徴の1 つである。しかし,有害事象が軽微であり,特に,経口分子標的薬は在宅で内服できる簡便性から,終末期にこれらの薬剤をいつ中止するのか,難渋する症例を経験するようになった。
 本稿では,腫瘍内科医として,経口分子標的治療薬のやめどきを決める葛藤や経験に関して,エビデンスを踏まえて述べる。

「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
飲めなくなった時のステロイド,どうする?

 緩和ケア医は,ステロイド処方に関して,「非特異的な目的に対して処方していること」「処方後のモニタリングやreview がないこと」,そして「中止する方法」などについて,不安があるという報告3)もあり,緩和ケアの現場でステロイドは頻用されているが,適切な使い方や,やめ方に関して,一定の見解がないことが分かる。

「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
内服できなくなった時の経口抗てんかん薬

 経口抗てんかん薬を内服することで,てんかん発作がコントロールされていた患者において,内服できなくなったためにコントロールが悪くなり,発作が生じるようになることは,極力避ける必要がある。
 一方で,非経口投与が可能な抗てんかん薬は,数が少なく限られてしまうため,終末期において発作をどのようにコントロールするか,悩むことも多い。また,終末期には全身が衰弱し,肝機能障害,腎機能障害,低アルブミン血症などを伴うことも多いため,有害事象が出現しやすく,投与量の調整に難渋することも多い。さらに,使用しているほかの薬剤との薬物相互作用が問題となることもある。
 このように,死が近い終末期において,内服ができなくなった場合の抗てんかん薬の投与に際しては,さまざまな問題点について,十分に検討する必要がある。
 本稿では,終末期において経口抗てんかん薬が内服できなくなった時の,考え方および対処法について解説する。

「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
糖尿病治療薬,高血圧治療薬,高脂血症治療薬

 糖尿病や高血圧症,高脂血症は,慢性の経過を辿る有病率の高い疾患である。一方,悪性新生物は,わが国において死因として最も多い疾患であり,糖尿病患者においても,死因第1 位に悪性新生物が挙げられる。したがって,がん終末期の患者が,糖尿病や高血圧症,高脂血症を合併していることも多く,現場の医療スタッフは対応方法を熟知していることが望まれる。
 本稿では,終末期における糖尿病や高血圧症,高脂血症への治療薬の継続や,中止に関する対応について述べる。

「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
喘息・COPD を有する終末期がん患者への吸入治療

 現在,喘息とCOPD 継続的治療の中心は,吸入抗コリン薬や吸入ステロイド薬であり,その有効性も確立している。しかし,がん終末期には,病状悪化に伴う呼吸筋の筋力低下を含む全身の筋量減少や,意識障害,眠気の増悪により,吸入薬の使用が困難となることも多く,こうした薬剤をいつまで継続するのか,判断に迷うことがある。一方で,経口や経静脈など,全身投与される薬剤と比較して,吸入薬の副作用は少なく,有効性も確立していることから,終末期がん患者であっても,吸入薬の使用を積極的に行うべき病態もある。
 本稿では,吸入治療の考え方,吸入治療の代替手段について述べる。

「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
認知症治療薬・抗うつ薬・統合失調症に対する抗精神病薬など既存の精神疾患に対する治療薬

 精神疾患に対する薬物療法は,一般的に長期に及ぶ。たとえば,統合失調症は,急性期エピソードのあとには,維持療法を行い,抗精神病薬の漸減を検討することになる。しかし,実際には,複数の急性期エピソードを繰り返し,漸減できずに維持療法を行っている場合が多い。
 認知症については,高度認知症に対しても症状改善効果が認められたことから,効果があるかぎり,抗精神病薬を継続する方針になりつつある。
 向精神薬は,経口薬が多いため,内服が困難になると同時に,継続が難しくなる。また,抗精神病薬などは,鎮静作用をもつため,全身状態が悪化すると,日常生活活動度を下げる方向に働くリスクがある。一方,向精神薬を中止すると,精神症状が悪化(統合失調症では,幻聴・妄想の再燃,うつ病では抑うつ気分の増悪など)するリスクがあり,漸減・中止を躊躇することも事実である。
 本稿では,終末期における向精神薬(抗認知症薬,抗うつ薬,抗精神病薬)の継続・中止の判断をいかに行うかについて,検討してみたい。

「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
血液透析

 「維持透析患者ががんと診断され,抗がん治療を進めてきたが,治療抵抗性の病勢となってきた。透析は,どう考えていけばよいか」
 透析患者の死亡原因の1 割が悪性腫瘍である。こうした相談は,透析室がある病院に勤務していると,まれなことではなくなりつつある。死を意味する透析の中止について,どのように考えていけばよいのだろうか。腎尿路系の臨床現場で透析などに従事し,その後,緩和ケアに転向した立場から,述べていきたいと思う。