がん疾患に限らず,痰の量の増加や喘鳴を伴う呼吸困難感は,終末期の患者に高頻度にみられる。患者本人の意識レベルが低下した状態で,吸引を希望する家族から,ナースコールをもらう機会は少なくない。
「患者が苦しがっています。何とかしてほしい。痰を吸引してください」―このようなコールに看護師が戸惑う時には理由がある。「家族の訴えに対応すべく吸引をしてもほとんど引けない」「吸引により呼吸状態に影響を与えるのでは」「出血させてしまうのでは」などの理由で,吸引によるデメリットが大きいと感じていることが,大きな要因ではないかと考えている。たとえば,次のような場合である。
臨死期のバイタルサイン測定やモニター類の「やめどき・やめかた」は,看取りの重要な一側面である。前述の家族たちからは,「患者とのお別れの瞬間に立ち会って見届けたい」「最期の瞬間まで家族にも配慮してほしい」という共通した望みが見え隠れする。
そこで,本稿では,患者の意思確認ができない場面を想定し,家族と,「バイタルサイン測定やモニター類のやめどき」に関する希望をどのように話し合うか,考えてみたい。
筆者が勤務する病棟(新潟県立がんセンター新潟病院 消化器内科病棟)は,高度先進医療を行う一般病棟であり,急性期と終末期の患者が混在する中で,質の高いケアを提供しなければならない。そのため,できるだけ患者・家族の排泄に対する思いを尊重し,排泄動作をどのように支えていくか,医療チームで検討し,ケアを行っている。しかし,何度もカンファレンスで検討を重ねながらケアを実践しても,「自分たちができることはこれで良いのか」と悩むことが多々ある。
本稿では,事例を通して,「最後までポータブルトイレで排泄をしたい」という思いをもち続けていた,終末期がん患者のケアについて,考えてみる。
終末期には,身体症状の増悪や合併症,全身状態の悪化を伴いやすく,リハビリを継続するか否か悩む場面も多い。たとえば,「患者・家族は継続を希望するが,訓練にて,かえって疼痛や呼吸困難などの身体症状が増強してしまう」「せん妄が強く,訓練ができない」「意識障害により,患者の希望や意思が確認できない状況の中,いつまで関節可動域訓練やマッサージを継続するか」といった葛藤がある。
化学療法や放射線治療のために,外来通院する患者の自宅での管理を,在宅医療機関に委ねられる場合がある。治療の目的や効果が明らかで,患者自身が通院できている場合はあまり問題とならないが,病状やPS(performance status)が悪化してくると,「いつまで通院し続けるべきか」患者・家族はもちろんのこと,医療者にとっても悩む場面となる。
本稿では,「在宅移行後の病院への通院をいつやめるべきか」在宅で関わる医療者がどのように考え,実践しているかについて,病院との連携のあり方を含めて述べる。
感染症は,終末期がん患者の合併症で死因の第1 位を占める非常に重要な状態であり1,2),生存期間を短縮させうるだけでなく,さまざまな症状を惹起し,QOL を著しく低下させうる。しかし,終末期がん患者を対象とした明確な感染症診療指針は存在せず,経験的な診療がされているのが現状である3)。そのため,熱源がはっきりしない発熱を呈した終末期がん患者を診る際,どの程度熱源検索のための検査を行い,どの程度治療を行うかに関して,悩むことが多い4)。
そもそも,進行がん患者の感染症では,常につきまとう問題がある。それは,「治療適応がどこまであるか」という問題である。これに関しては,2 つの対立した考え方がありうる。1 つ目は,「腫瘍の進行による感染症は不可避なものであり,治療する必要はないという考え方」。2 つ目は,「治療すれば苦痛症状が緩和されるので,しっかりとした診断や治療を行うべき」とする考え方である。
これは,そのいずれかを選択するのではなく,「両者の考え方の間で着地点を見出していく」という作業が必要になる。腫瘍の進行度や,予測される生命予後,患者・家族の意思や,療養の場における検査・治療の実現性などを総合的に考慮して行うべき,難しい判断となる。
誤嚥が明らかな場合の対応としては,誤嚥を防ぐための食事形態の変更や,姿勢の工夫が行われるが,それでも改善が難しい場合には,摂食希望があっても食事摂取を制限せざるをえず,患者のquality of life(以下,QOL)を損なうことがある。
原因治療として,抗菌薬による治療を開始したあとに,一時的に肺炎が改善した場合であっても,その後に肺炎の再燃を繰り返すことがある。そのため,抗菌薬を使用すべきか,いつまで継続すべきかなど,倫理的な問題も含まれ,検討すべき課題は多い。
本稿では,エビデンスと教科書の記述を踏まえたうえで,誤嚥性肺炎への対応について事例を基に考える。
本稿では,がん終末期患者(予後週~短めの月単位を想定)でよく遭遇する,数回治療して下がりが悪くなってきた時の高Ca 血症への対応について,エビデンスや考え方を概説する。
本稿では,がん患者の,療養中に併発した大腿骨頸部/転子部骨折(骨転移に伴う病的骨折を除く)を扱う。生命予後としては,おおよそ3 カ月以内を想定する。
大腿骨頸部/転子部骨折は,高齢化に伴って増加している骨折である。大腿骨頸部/転子部骨折は,寝たきりの原因となり,また生命予後の短縮とも関わっており,1 つの社会問題と認識されている。2007 年の年間発生数は15 万例であり,40 歳から年齢とともに増加し,70 歳を過ぎて急激に増加していた1)。この年齢層は,がんの好発年齢とも合致しており,骨転移の有無にかかわらず,がん患者が療養中にこの骨折を経験する可能性は,少なくないと考えられる。
酸素投与は,患者に,拘束感や鼻腔/口腔の乾燥などの苦痛をもたらすことがあり,また,せん妄の増悪因子となってしまう可能性もある。つまり,あまり意識されないかもしれないが,酸素投与は,負担やリスクを伴う医療行為であるというのも事実である。
したがって,特に終末期にある患者においては,酸素飽和度という「数字」の改善というような,患者にとって直接的なメリットではない治療目標ではなく,より患者に直接的にメリットとなる治療目標を立てることが望ましい。では,終末期にある進行疾患患者の呼吸不全に対して,酸素投与を行うことは,患者に直接的なメリットをもたらすのであろうか?
近年,患者やがん腫などのリスクごとに,DVT に関する知見が蓄積されている1)が,一方で,終末期がん患者の抗凝固薬療法に関するエビデンスは乏しい。本稿では,終末期がん患者のDVT への対応について概説する。
終末期のがん患者が,動悸を訴え,心電図で不整脈が認められた場合,その治療については,悩むことがある。がんにより,病状不良な患者に対し,「不整脈を停止させるための薬剤をどう使用すべきか」「発作予防のために内服を開始すべきか」,あるいは「カテーテルアブレーションについて,専門家にコンサルトすべきか」などである。
また,心房細動の場合は,脳梗塞予防のための抗凝固療法の適応に関しても,悩ましい。なぜなら,全身状態が良好で予後が期待できる状況であれば,多くの治療でメリットがあるが,全身状態が低下し予後が限られた患者では,デメリットが大きくなるからである。がん終末期の不整脈治療に関しては,あまり議論されていない。
本稿では,頻脈性不整脈のうち発作性上室性頻拍症と心房細動に関して考えてみたい。
うつ病は,それそのものが苦痛をもたらす精神症状であるが,希死念慮が出現したり,QOL の全般的な側面の増悪と関連するなど,さまざまな負の影響がある。そのため,速やかな介入が期待され,一般的には薬物療法の有効性も示されている。
しかしながら,終末期のうつ病の薬物治療を考える際には,表1 に示す3 つの観点について,留意する必要がある。一般的なうつ病に対する薬物療法に比べると,有害事象が出現する危険性が高いにもかかわらず,効果が得られる前にせん妄に移行してしまう可能性に留意する必要があり,投与すべきか否か,迷うことが多い。
本稿では,「浮腫や腹水があり褥瘡のハイリスク状態であるが,動くと大変,でも動かさないと背中やお尻が痛い場合」を想定し,どのようなケアを行うか,終末期における褥瘡の予防に関するエビデンスと考え方について,概説する。
われわれ医療者は,臨床において患者の怒りに遭遇する。怒りの原因が,医療者にとって「謝罪すべき出来事である場合」もあるが,「(一般的な捉え方からすれば)落ち度のない場合」もある。そして,医療者は,怒りを表す患者に接する場合に,「なるべく距離を置く」や「怒りの理由を聞き,誤解を解こうと詳しく説明する」という方法をとることあるが,患者の怒りを助長させてしまうことも少なくない。
では,実際に,怒りを表出する患者に,医療者は,何を考え,どのように対応することが良いのか,事例を通して考えてみたい。
終末期がん患者は,身体的にも精神的にも多くの不安や苦痛を抱えている。
私たち看護師は,患者の日常生活に深く関わるため,不安や苦痛を表出する場面に立ち会う機会が多い。しかし,未だがんは死を連想させる疾患であることから,がんの進行に伴う身体的症状のみならず,患者の性格や死生観,人間関係など,さまざまな要因が,不安や苦痛に大きく関与する。
そのため,患者の不安や苦痛の表現は,対応する医療者の職種によって異なったり,患者の真意をどのように捉えて対応したらよいか,困惑することも少なくない。
本稿では,入院患者・外来患者それぞれについて,対応に困惑した症例をもとに,支援の方法について考えていきたい。
ホスピス・緩和ケア病棟に入院する多くの患者・家族は,苦痛なく安らかに過ごしたいと願い,われわれスタッフも,患者・家族のさまざまな苦痛の緩和を目標に,日々ケアを行っている。
今回,苦痛がありながらも患者自身の信じる宗教の教えを守り,最終的には苦痛緩和のための薬剤をすべて中止して旅立たれた方の事例を経験した。医療者のわれわれは,患者の苦痛を緩和できないというジレンマと,患者・家族のゆるぎない信念に戸惑いを覚えた。患者・家族の申し出を受けて,われわれがどう考え対応したのかを,以下に紹介する。
生命を脅かす疾患,進行性の疾患に罹患した患者は,病名の告知,再発の告知,病状進行の告知など,bad news を何度も聞くことになる。中でも,継続してきた治療の効果が望めなくなった時期のbad news は,死を連想させるものであり,患者の衝撃は大きく,医療者は対応に苦渋することがよくある。
本稿では,病状を受け入れられない患者を想定し,看護師の立場での対応について述べる。