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「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者との対応】
「“進行がん”という病気への理解が困難な状況」における臨床現場での対応

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者との対応】
「“進行がん”という病気への理解が困難な状況」における臨床現場での対応

 医療者側が「進行がんという病気」について時間をかけて丁寧に説明したあとも,医療者が思った以上に,なかなか病気への理解が難しいという場面は,臨床現場ではしばしば見受けられ,その都度対応を迫られることがある。また,このような場合の対応は,筆者の知るかぎり,成書では明確に触れられていない。
 また,50 歳代,60 歳代などの中年期のがん患者の治療方針について,カンファレンスで議論する際に,医療者が熱意をもって治療やケアを行っているために,医療者の見解として,「(患者が)病気の受容をできていない」「(患者と医療者との)病状認識に相違がある」「(患者の)理解力が低下している」などがその原因として挙げられることがある。
 このような時には,「(患者が)病気を受け止めるには」「(患者に)病気を理解してもらうには」「(患者に)治療を諦めてもらうには」「(患者に)長く生きられないことを自覚してもらうには」と,説得する方法に焦点が向けられることもある。
 本稿では,「進行がんという病気への理解が困難な状況」における臨床現場での対応,すなわち,病状認識に対する理解や受容が困難な患者の対応に関する,ヒントの1 例を示したい。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者との対応】
骨折のリスクがあるが歩きたい患者

 骨関連有害事象を予防する目的で,医師から,歩行の禁止や床上安静を指示される場合がある。進行がん症例においても,移動や排泄を自力で行いたいと希望されることは多く,骨関連有害事象を予防するために,活動を制限されることは,QOLの著しい低下を生じることとなる。しかし,その対応については,十分なエビデンスや標準化された方法はなく,臨床現場で,個別の対応に迫られているものと思われる。
 本稿では,骨折リスクの評価方法と,対応方法の考え方について,述べることとする。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者との対応】
「今はまだ帰れない」とき―早く帰りたいという患者と,このままでは帰すのが心配な医療者

 患者が,「自宅に帰りたい」と発言されるが,事情があって,なかなか退院許可が出ない事例を体験することがある。具体的には,「入院環境で抗がん治療を開始あるいは変更したいと考えている場合」「症状が緩和されていない場合」「炎症反応が高値の場合」「介護者がなく,増悪した認知症状を抱える場合」など,退院してもすぐに緊急入院の事態が予測されるケースなどがある。
 本稿では,独居で生活しているがんの終末期の患者が,「自宅に帰りたい」と話される一方で,「自宅では,集中した医療が受けられる環境にならないと退院が難しい」と医師が考えている場合の対応について述べる。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【家族との対応】
家族への説明を患者が拒む

 【家族への説明を患者が拒む場面】
主治医は,急変の可能性がある患者に,「病状が悪くなった時のために,家族にも説明しておきたい」と,家族と一緒に受診するように勧めた。しかし,患者は「家族は連れてきたくない」と言っている。なんとか家族とも会っておきたい場合の看護師の対応を,述べていきたい。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【家族との対応】
終末期がん患者の輸液の減量

 がん終末期は,悪液質や消化管狭窄・閉塞,多発転移による臓器障害など,さまざまな原因で,栄養障害が顕著となることが多い。しかし,この時期の高カロリー輸液の継続は,栄養状態の改善が期待できないばかりか,気道分泌物や胸水・腹水の増加など,苦痛の増強につながることも多い。そのため,医療者は,患者・家族に対して,輸液の減量や中止を提案する。
 しかし,患者・家族は,食べられなくなり,痩せ衰えてきた状態を目の当たりにすると,「このままでは餓死してしまう」と,点滴を中止することへの不安を訴え,「むしろもっと栄養を入れてほしい」と希望する。結局は,輸液を減量するタイミングをつかめないまま,ずるずると継続していることも多いように思う。このような時に,医療者としてどのような対応が可能なのか,本稿では考えてみたい。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【家族との対応】
看取りが近い時期に「一度,家に帰ってきたいけど大丈夫?」と言っている家族への対応

 看取りのプロセスにおいて,家族は,悲しみ・怒り・寂しさ・後悔・無力感などの,さまざまな感情を体験する。家族が体験している感情に対して,どのように対処していくかは,病気の進行経過,今までの関係性,文化的・宗教的背景,コーピングスタイル,社会的・経済的状況,などが影響を与える。そのため,医療者は,家族の背景を十分に理解したうえで,支援していくことが大切である。
 本稿では,死が間近に迫った患者の家族が,ベッドサイドから遠ざかろうとしている場面で,看護師がどのように支援することが望まれるのかを,考えてみたい。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【家族との対応】
呼吸困難に対するモルヒネの開始に,不安を抱いている家族への対応

 終末期がんの中でも特に,予後日単位の時期の患者が体験する症状については,効果的に緩和が得られる支援は少ない。臨床では,このような状況の中で,患者・家族が自分らしく,より良い時間の過ごし方を実現できるよう,悩みながら治療やケアを検討している。患者・家族もまた,必ずしも正しいという選択肢がない場面における意思決定について,悩むことが少なくない。
 患者・家族が,納得した医療を受けるためには,大切にしたい思いが尊重される必要があり,それを実現できるためには,患者・家族が自らの思いや感情を表出が重要である。
 筆者は,患者・家族の思いや感情の表出を促す場面では,米国国立がん研究所や当院(国立がん研究センター東病院)で推奨している,“NURSE”というコミュニケーションスキルを実践している(表1)1,2)。
 本稿では,この技法を活用した支援について,筆者が関わったケースを紹介しながら,検討したい。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【家族との対応】
たまたま現れた経過をよく理解していない家族への対応

 在宅ケアに携わるようになり,家族ケアほど難しく,個別性のある看護はないのではないかとさえ感じる。
 しかし,在宅では,特に家族の存在や関係性が,ケアに大きな影響を及ぼす。医療者が,患者・家族の生活の場に入っていくことで,多様な家族のありようを目の当たりにする。日々の訪問を通して,どんなに注意深く家族の関係性を把握したつもりでも,十分ではないことがあり,対応や調整に,難しさを感じる。
 特に,“たまたま現れた経過をよく理解していない家族”の登場は,これまで丁寧に築いてきた在宅での日々を,容易にかき乱すことになりかねない。
 本稿では,患者や身近で介護をしてきた家族とは異なる意向をもつ家族が突然現れ,在宅緩和ケアに混乱をきたした事例を紹介する。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者と家族のあいだで】
補完代替医療をめぐる患者と家族の意見の違い

 補完代替医療は,科学的検証が十分に行われておらず,根拠となるのは,体験レポートや権威者の推薦など,信頼性に乏しいものばかりではないだろうか。まして,保険適応が認められていない領域であることから,医療者の関心は低く,患者・家族が話題にしてきても,その効果と持論を説明するに終わらせていることが,多いのではないだろうか。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者と家族のあいだで】
食事と栄養に対する患者と家族の闘い(food battle)

 本稿では,食事がテーマとなった2 つのコミュニケーションの事例を取り上げて,それぞれの患者・家族の意向がどのような形で表出され,そこに医療者はどのように関わっていくことが望ましいのか,考えていきたい。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者と家族のあいだで】
偽りの説明を求める家族

 インターネットが普及し,昔に比べれば,一般の方にも,がんに対する治療法は,はるかに調べることが容易な時代となった。一方で,多すぎる情報量に振り回されている患者・家族も多く目にするようになった。そして,いわゆる積極的な治療(手術・抗がん剤・放射線治療など)が終了したあとも,患者・家族の中には,治療を探し求める方もいる。
 本稿では,われわれが経験した「偽りの説明」を求める家族の事例を通して,「患者と家族のあいだで」われわれにできることを考えていく。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者と家族のあいだで】
患者と先々の話ができない家族

 臨床現場ではしばしば,「もう長くはない」と,“終末期であること”を実感している患者に対し,「そんなことはない」と否定する家族と出会う。その家族は,大事な家族を失うかもしれない恐怖や不安を抱え,時に患者の現状を否認したり,その現状について語ることを避ける場合がある。このようなケースを前に,私たちは「どうしたらいいのか」悩むことがあるのではないだろうか。
 今回,「残された時間があまりない」と自覚し,自宅に帰ることを望む娘に対して,「そんなことはない」と必死で娘を説得しようとする父親に出会った。どのように考えて支援をしたのか,その道筋を辿っていこうと思う。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者と家族のあいだで】
患者と希望の合わない元配偶者

 臨床において緩和ケアを実践するうえで,私たち医療者は,患者・家族の意向を大切にしたいと思い,関わっている。しかし,患者・家族の意向が違う場面に遭遇することも多く,悩むことが少なくない。正解がない中,患者・家族にとっての最善は何かを考え,より良いケアを提供するために,カンファレンスで話し合いを重ねているのではないだろうか。
 本稿では,患者(妻)は「会いたくない」と言っているが,元夫は「会いたい」と訴えてくる,といった事例について,倫理的視点から考えてみたいと思う。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者と家族のあいだで】
「 離別した娘に最期に会いたい…」でも家族は会わせたくない

 終末期がん患者は,痛みなどの身体的苦痛症状を体験するとともに,社会的・精神的・スピリチュアルな苦痛を体験する。その過程で,「これまでの自分の人生を振り返り,整理を行いたい」と願う時が訪れる。限りある時間の中での希望の実現や,実現に向けての支援を受けることが,スピリチュアルケアとなり,患者の残された時間のQOL 向上につながる。
 離別した子どもがいる場合は,「一目会って話したい」「親子関係の修復を図りたい」という希望をもつことが多い。しかし,このような患者の希望の実現については,元配偶者や子どもの意思により,左右されることになる。
 本稿では,がん治療を受けている患者が生命予後を告知され,離別した子どもに会うことを希望したが,元配偶者がそれを拒否しているケースに対し,看護師としての関わりの1 例を述べる。

「どうしたらいいのか」悩む場面―正解のない状況でのコミュニケーションや考え方【患者と家族のあいだで】
自宅ではない場所で婚姻関係にないパートナーと共に在宅ケアを受けたい患者への支援

 近年の家族の形態は,さまざまである。医療者としては,「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」のような家庭環境や人間関係なら分かりやすい。しかし,この15 年近くは,核家族から「個」家族が多くなっている。
 在宅現場の印象としては,介護保険制度が開始され,ケアの時間・質がすべてお金に切り替わってから,さらに希薄さに拍車がかかっている。
 本稿では,事例を通して,民法上の家族がいながら,他人と生計を共にし,家族のように生き,最期までの療養を迎えたいと考えている患者への,支援のあり方を学ぶこととする。

「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
骨関連事象予防のために投与されていたビスホスホネートとデノスマブ(ランマーク®)のやめどき

 ビスホスホネート(以下,ビス剤)は,骨を構成するピロリン酸に類似した物質で,まず骨皮質に沈着し,そのあと破骨細胞内に取り込まれて,骨器質からの遊離やアポトーシスを誘導して,骨吸収を阻害する。デノスマブは,破骨細胞の形成および活性化に必須のサイトカインである,RANKL(receptor activator of nuclear factor kappa—β ligand)に対するIg G2モノクローナル抗体である。破骨細胞の形成・活性・生存を抑制して,骨関連事象(skeletal related event;SRE)の発現を抑制する。
 いずれも,骨痛を緩和する作用があるので,日本緩和医療学会の『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014 年版』では,両者を骨代謝修飾薬(bone modifying agent;BMA)とまとめて,鎮痛補助薬に位置づけている。

見学では分からない海外事情
米国・日本での経験からみえるカナダ ブリティッシュコロンビア州の緩和ケアの今

3カ国にわたるホスピスでの経験
 筆者は,幼い頃から医療分野で仕事をしたいけれど,医師や看護師という職種ではなく,違うことをしたいと考えていました。ある時,米国には,医師・看護師以外の人が,医療現場で,患者・家族を支える環境があり,それはソーシャルワーカーという仕事であると知りました。このことがきっかけで留学を決意し,米国オレゴン州,ポートランド市内の大学と大学院でBSW(bachelor of social work),MSW(master of social work)の学位を取得しました。

現場で活用できる意思決定支援のわざ
エンド・オブ・ライフケアにおける意思決定の考え方

 本稿では,まず医療における意思決定の特徴について論述し,その後,特にエンド・オブ・ライフ・ケアにおける意思決定において,医療者が配慮する必要がある点について考察する。そのうえで,医療者が,意思決定のプロセスを患者や患者の関係者とともに考え,患者に対する意思決定を支援するうえで,どのようなことを念頭に置くべきかについて,考察したい。

現場で活用できる意思決定支援のわざ
エンディングノートの活用方法

 東京逓信病院 がん相談支援センター(以下,当相談支援センター)では,「自分の意思や思考を整理し,生きてきた軌跡などを書いて残す」1つの方法として,「エンディングノート」を作成し,使用している。
 
 本稿では,この「エンディングノート」を意思決定支援の1つの方法としてどのように活用しているのかを紹介する。さらに,実際に「エンディングノート」を患者から受け取ったご家族の感想を聴くことができたのでお伝えしたい。

エシックスの知恵袋
体調も気持ちも不安定な終末期の患者さんに,「予測される予後を伝えなくてはいけない」ことに悩んでいます・・・。

事例

患者 
 Fさん,50歳代後半,男性。膵がん,がん性腹膜炎,糖尿病性腎症。Fさんは,自身が興した会社を経営している。
 
家族 
 同年代の妻と2人暮らし。子どもはいない。

経過 
 Fさんは,半年前から,倦怠感と食欲不振を自覚していた。1カ月前に,体重減少と上腹部痛を主訴に初診,精査にて上記診断となった。手術適応はなく,腎機能から化学療法も難しいと判断され,緩和ケアを中心とした療養が最善である旨が説明された。
 Fさんへはすでに,「今回の膵がんがいずれは生命に関わってくるでしょう」との病状説明がなされている。病状説明の際に同席した妻から,後日,「Fは半年後も仕事をできますか?」との質問があったため,主治医は,「残された時間は,考えていらっしゃるよりも短いと思います」と説明した。妻は,Fさんの自営の仕事を支えていたため,Fさんの心身面だけでなく,残務整理や引継ぎについても気にしている様子であった。
 その様子を受けて,病棟看護師から,「Fさんに具体的な数値としての予測される予後を伝えて,残された時間を有意義に使ってもらった方が良いのではないか」との提案があった。そこで,プライマリチーム(主治医・病棟看護師)と,緩和ケアチームでカンファレンスを行った。
 カンファレンスでは,参加者の経験上,「予測される予後を伝えた方が良い」というコンセンサスには至ったが,「なぜ伝えた方が良いのか」について明確な理由が見出せなかった。そこで一度,緩和ケアチームが,臨床倫理専門家に倫理的な考察を求めることとなった。