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のぞいてみよう!国際学会最前線 9
異なる文化,共通する願い─再会の楽しみと新たな学び

のぞいてみよう!国際学会最前線 9
異なる文化,共通する願い─再会の楽しみと新たな学び

学会名:第12回アジア太平洋ホスピスカンファレンス:
12th Asia Pacifi c Hospice Conference 2017:APHC
開催日:2017年7月26日~7月29日
開催地:シンガポール


松島たつ子
ピースハウスホスピス教育研究所


アジア太平洋ホスピス緩和ケアネットワーク(Asia Pacifi c Hospice Palliative Care Network : APHN)は,1995年,(財)ライフ・プランニング・センター日野原重明理事長が,アジア太平洋地域の関係者に呼びかけ,互いの知識や経験を分かち合い,この地域におけるホスピス緩和ケアの発展を目指して,連絡会議を開催したことからスタートした。緩和ケアに関心をもつ人々が,この地域で学びの機会をもてるように,またアジアの文化を尊重した緩和ケアを育てていこうという願いがあった。2001年, 正式な団体として登録され, 現在,APHNには,30を超す国と地域から,団体・個人合わせて1,500余の会員が登録されている。

仕事人の楽屋裏 20
關本翌子

 1986年に国立がんセンター(現国立がん研究センター中央病院)に看護師として就職しました。入職した
病棟は整形外科脳外科病棟でした。支持療法がない時代に,10歳代後半の若い患者さんたちが,幻視痛やがん化学療法の激しい悪心のなか,必死に生きぬいた姿が目に焼きついています。痛みのアセスメント,原因と対策を考え,その人にあった治療とケアに貢献したいという思いで,がん性疼痛看護認定看護師を取得しました。2006年から国立がんセンター東病院(現国立がん研究センター東病院)の緩和ケア病棟の看護師長となり,痛みや看取りなどの教育のために地域に出向き,訪問看護の実習をさせていただき,病院から地域へと視点が広がってきました。

えびでんす・あれんじ・な~しんぐ(EAN)下痢の皮膚障害─スキンケア製品を用いた予防対策<9>

松原 康美(北里大学看護学部 北里大学病院)


失禁関連皮膚炎(incontinence associated dermatitis:IAD)は,尿や便が皮膚に接触することにより生じる皮膚の炎症をいいます。特に下痢でおむつを使用している場合に生じることが多いと思います。便は尿に比べると,アルカリ性で消化酵素の活性が高く,おむつに吸収しきれず皮膚に付着しやすいこと,便をふき取る際の機械的刺激などがIAD発生の引き金になるといえます。

落としてはいけないKey Article 20
オキシコンチンの投与開始時にプロクロルペラジンの予防投与は効果がなさそうだ

森田 達也(聖隷三方原病院 緩和支持療法科)
十九浦 宏明(聖隷三方原病院 ホスピス科) 


【今月のKey Article】
Tsukuura H, Miyazaki M, Morita T, et al:Efficacy of prophylactic treatment for oxycodone-induced nausea and vomiting among patients with cancer pain( point):a randomized, placebo-controlled, double-blind trial. Oncologist pii:theoncologist. 2017-0225. doi: 10.1634/theoncologist.2017-0225.

 今号は,「オピオイドの開始時に制吐剤の予防投与は必要なのか?」に関する比較試験を扱います。国内では,オピオイド開始時に制吐剤(主にはプロクロルペラジン〈ノバミンⓇ 〉)をルーチンに予防投与することが勧められてきましたが,海外では「30%くらいにしか生じないものに予防投与する」という発想があまりありません。したがって,海外での実証研究がほぼ0の状態でのぞんだ臨床試験ということになります。

緩和ケア口伝―現場で広がるコツとご法度(20)
緩和ケアにおける食に関する取り組み「緩和食」

松田 直美(聖隷横浜病院 栄養課)


● 患者の好むメニューを取り入れることは重要だが,人員面・在庫管理・作業効率等を考慮し実現可能なメニューを決定する。
● QOL 向上のためにできるだけ患者本人にメニュー選択用紙の記入を行ってもらうとよい。
● 病棟スタッフへの周知により,早い段階での対応が可能となる。

緩和ケア口伝―現場で広がるコツとご法度(20)
緩和医療に携わる医療者へのマインドフルネスの活かし方

佐藤 寧子
(独立行政法人国立病院機構東京医療センター)


● マインドフルネスは,科学的に実証されたストレス軽減やコンパッション(思いやり,慈悲の心)を育む方法であり態度である。
● 医療者向けのプログラムが開発されており,セルフケアだけでなく,患者との関係性や柔軟な思慮深い対応に有効である。
● まずは実践。身体感覚,思考,感情に気づくことから始めてみる。

緩和ケア口伝―現場で広がるコツとご法度(20)
亜鉛華デンプンまたはモーズ軟膏による腫瘍の制御のコツ

安部 一秀(太田熱海病院薬剤部)


● 亜鉛華デンプンは散布するだけで消臭効果が得られQOLを向上させることができる。
● 亜鉛華デンプンはモーズ軟膏に比べて止血や腫瘍抑制効果は弱い。
● 亜鉛華デンプンは湿潤している場合に禁忌となっているため,使用の際に同意を得るなどの注意が必要。

いま伝えたいこと―先達から若い世代に(19)
緩和のこころ─研修医に伝えていること

平賀 一陽
(前国立がんセンター中央病院特殊病棟部長)


 がんセンターという組織に勤務しているというだけで,多くのオピオイド鎮痛薬の治験にも参加させていただき,緩和医療学会の「Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン」1)の作成委員長として多くを学ばせていただきました。
 退職前に国立がんセンター東病院臨床開発センター精神腫瘍学開発部長の内富庸介先生から,「精神腫瘍科にコンサルトされる患者さんの50%以上は痛みの緩和が不十分なので,東病院に」というお誘いを受けて,東病院の支持療法チームに所属して多くのことを学ばせていただきました。

FAST FACT〈20〉がん患者における非糖尿病性低血糖

野里洵子
(東京医科歯科大学医学部附属病院腫瘍センター)
三宅 智
(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
臨床腫瘍学分野)


糖尿病を有さない患者における低血糖として,悪性腫瘍の進行に伴う低血糖(tumor-induced hypoglycemia;腫瘍性低血糖)に遭遇することがある。低血糖の症状・所見としてはWhippleの3徴(空腹時の意識消失発作,発作時血糖が50㎎/dL以下,ブドウ糖投与による症状改善)が知られており,そのほかにめまい,ふらつき,冷汗,動悸,振戦,せん妄(意識障害),痙れんなどがみられる。特に早朝や午後遅くに生じることが多い。

プロセスレコード

梅澤 志乃
東邦大学医療センター大森病院看護部


がん医療に関わる医療者の多くは,患者や家族の価値観に寄り添いたいと,日々努力を重ねているだろう。しかし,ときに医療者自身と異なる価値観をもった患者や家族に出会うことで,十分に寄り添えないと感じることもあるだろう。また,患者や家族から怒りや拒否,絶望感といった激しい情緒的反応をぶつけられ,当惑したり無力感にさいなまれることがあるかもしれない。

価値観の探究に活用できるツール─The Good Thinker's Toolkit

新幡 智子
慶應義塾大学 看護医療学部


 皆さんは,「哲学者の道具箱」とよばれる「The Good Thinker’s Toolkit」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。これは,対話の際に,互いに質問をし合ったり,考えを深め探究したりする際の手助けやヒントとなるツールである。このツールは,本誌のテーマでもある「患者・家族の価値観に寄り添う」ために,その人の価値観を理解したい,真のニーズが何かを理解したいと思った際にも活用できると考える。そこで,本稿ではこのツールの概要や実際の活用について紹介していく。

「価値観なのか,一時的なことなのか」ということ

髙橋 美賀子
聖路加国際病院オンコロジーセンタ


医療を受けるなかで患者には日常的にさまざまな場面で意思決定が求められる。また,医療者は患者の価値観を大切にして意思決定を支援しようと努めている。しかし,医療者の最善と考える医療を受けないという選択をする患者に対して寄り添おうとするとなぜかモヤモヤすることがあるのではないだろうか。

モヤっとするのは大事

濵本 千春
YMCA訪問看護ステーション・ピース


 現場では,「え! 何で?」「私にはそんなこと話していなかったのに!」「私に話していたことと違う!」「普通はこんな風にはしないよね?!」「そんな言い方しなくてもいいのに……」などのボヤキがある。
 しかし,患者の声を伺うと「? 意味がわからん?」「う~ん,違うよ! ちゃんと話を聴いてください」「誰がそんなことをあなたに頼んだ?!」「○○さんとの関係を邪魔しないで!」「能書きばかりうるさい! ○○したら,△△になる,△△したら,□□になる?じゃ,何を選んだら看護師さんは納得するの?」「悩んで相談したら『患者が自分で納得して選んでいいんですよ』だと言われ…分かんないから尋ねているのに答えてくれない」「自己決定だの,意思決定支援だの,ACP? だの言ってるけど,医療者の自己満足と自己防衛じゃないの?」と,これまたボヤキの嵐である。

「あなたと私は違う」という気づき

田村 恵子
京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 臨床看護学講座 緩和ケア・老年看護分野


数年前に筆者の研究室に配属になった学生から,「看護師さんは患者さんとの考えがまったく違うときにどのよう対応しているのですか?」と質問を受けた。筆者は「もちろん,患者さんの考えや希望をお聞きして,意向に沿うようにしています」と答えると,さらに「明らかに看護師の考えのほうが良いと思っていてもですか」と質問が続いた。筆者は,「そうね。もちろん話し合いはするけれども基本は患者さんの意向に沿って考えるようにしている」と答えると,「ふーん」と何とも納得のいかない様子であった。

患者のモヤモヤ・看護師のモヤモヤ─精神看護の視点から

川名 典子
杏林大学大学院保健学研究科


「患者の価値観に寄り添うと看護者がモヤモヤする」。臨床ではよく耳にする言葉である。看護師がモヤモヤするとき,何が起きているのだろうか。例えば,患者の価値観に基づいた意思決定に看護師が納得できないけれど,患者の価値観を尊重しようと無理やり自分を納得させるとき,さらにその納得いかない問題をチームで話し合っても解決につながらないようなとき,こういうときはモヤモヤを「納得いかない」と翻訳できるのではないだろうか。

「とりあえず大本(患者中心)に戻る」ということ

大谷 弘行
九州がんセンター 緩和治療科


あなたは,昨日何人の方と出会い,何を話しただろうか。そして,その方について何を知っただろうか。
ある緩和病棟で勤務していたときのことだ。担当の患者のお見送りをした後,病室に何か忘れていることに気づいた。幼児期から現在までにわたる患者のアルバムであった。それを見て,その方のことを何も知らなかったことに愕然とした。また,あるとき,一家の大黒柱であった男性が膵がんとなり,顔をしかめて痛がっていた。レスキューを勧めたが,拒否を繰り返していた。医療者として,どうしたらよいのか分からなかった。そんなとき,ぼそっと語り始めた。「僕は遺された家族にがんばっていた姿を憶えていてほしいんだ」「……」。

対話を通じ価値観を理解,尊重することと他者をケアすること

高橋 綾
大阪大学COデザインセンター


英語では価値,価値観(values)という言葉は,人がある行動や選択をするときにしている「何が大事で何が大事でないか,何をすべきで何をすべきでないか」という価値についての「判断」のことを指している。したがって,価値観を考えるうえでは,その人の表面的な行動や選択ではなく,その背景にある「〜だからこうする,〜のほうが重要」という「判断」について知ることが重要である。

看護師オンデマンド型緩和ケアチームで実践する診断時からの緩和ケア

海津 未希子
慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科


周知のとおり,「診断時からの緩和ケア」は第2次がん対策推進基本計画(2012年)で打ち出された。その後,がん患者指導管理料2の設置(2014年)や,がん診療拠点病院における苦痛のスクリーニングの導入(2014年),緩和ケアリンクナースの設置が推奨され,ここ5年間で診断時からの緩和ケアを,1次緩和ケア,2次緩和ケアで保障する構造とプロセスが整備されてきている。緩和ケアチーム依頼時の治療時期の推移をみても,診断時の依頼が増えてきていることが分かる(図1)。
本稿では,「診断時からの緩和ケア」に伴う緩和ケアチーム(2 次緩和ケア)への依頼に対し,筆者がかつて従事していた緩和ケアチームの実践例を述べる(なおチームの実践は現在も変わっていないため,記述は現在進行形とした)。

診断時からの緩和ケアを成り立たせる臨床モデルは何か?

森田 達也
聖隷三方原病院 緩和支持治療科


本稿では,診断時からの緩和ケアを成りたたせるわが国で実現可能な臨床モデルについて論考してみたい。なるべく現状から妥当と思われる見解を述べるが,知見から結論できる課題でもないので,筆者の考えを述べる部分が多くなることをご了解いただきたい。