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緩和ケア口伝―現場で広がるコツとご法度(18)
訪問看護師と専門・認定看護師の同日訪問の取り組み

緩和ケア口伝―現場で広がるコツとご法度(18)
訪問看護師と専門・認定看護師の同日訪問の取り組み

浅塲 香(静岡赤十字病院 医療社会事業部)


● 地域の緩和ケアに関するニーズを調査し,地域のリソースナースとしての役割を明確にすることが必要である。
● 地域の医療者と患者・家族との信頼関係に悪影響を与えないように留意することは必須である。
● 訪問看護師と同じ看護師同士として看護を語り合い,看護という共通言語で地域連携を進めよう。

仕事人の楽屋裏 18
茅根義和

医学部に入ってまもなくの時期に,淀川キリスト教病院ホスピス開設時に入院された牧師さんの闘病記『また会いましょう天国で』(鎌田清子著,キリスト新聞社,1985)を読んだことがそもそもの始まりです。私の祖母とその牧師さんの奥様が女学校の同窓生であった関係で,祖母が買い求めていた本でした。この本をきっかけにホスピスの存在を知りました。その後,大学2年生のときに知り合いの牧師見習いに誘われて浜松の聖隷ホスピスに見学に行く機会を与えられ,当時のホスピス長であった原義雄先生から患者を看取る医療についてお話を聞くことができました。いずれも自分から積極的に求めたわけではなかったのですが,ホスピスが私の進む道筋の先にいつも存在していたように思えます。

いま伝えたいこと―先達から若い世代に(17)
緩和ケアと向き合うには

安達 勇(静岡県立静岡がんセンター 参与)


私は,腫瘍内科医として国立がんセンターで働き,その後,緩和医療医師として静岡がんセンターに務め,実に半世紀に渡りがん医療に携わってきたことになる。一貫してがん医療の最先端を垣間みてきた。その間,がん医療に対する医師側の姿勢が時代とともに変革してきたと痛感している。大学で内分泌学を専門としていたことから進行再発乳がんの内分泌療法や化学療法を臨床腫瘍内科医のはしりとして分担し,当時はがんを徹底的に治すことを目標にしていた。乳がんは固形がんのなかでも抗がん療法で寛解することも多く,病脳期間が長く,転移に伴うさまざまな病態,治療の副作用など多々学ばせてもらった。特に1989年に乳がん患者の患者会「八番会」がつくられたことから,初めて患者・家族側らの治療に伴う副作用のつらさや日常生活面の苦悩などを知ることができた。自分なりに「治してやった」などと自己満足しながらプロトコール・スタディをこなしていたことを大いに恥じることを経験した。

FAST FACT〈18〉
腹水

松沼 亮(兵庫県立加古川医療センター 緩和ケア内科)


1. 定義,発生頻度:腹水はさまざまな原因で腹腔内に病的な液体が貯留した状態である。
2. 発生頻度:腹水患者の約90%が非悪性腫瘍,約10%が悪性腫瘍に関連した腹水と報告されている。

がん患者の咳にガバペンチン・プレガバリンはダメ?

坂下 明大
神戸大学医学部附属病院 緩和支持治療科


がん患者が咳で苦しんでいるときに,ガバペンチンやプレガバリンを使ってみようと思ったことはあるだろうか? 『がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016年版』(以下,2016年版ガイドライン)においては,「咳嗽を有するがん患者に対して,咳嗽を改善するためにプレガバリン・ガバペンチンを投与しないことを提案する」とされている。しかし,2016年版ガイドラインでは,「がん患者の難治性の咳嗽に対して,ガバペンチンやプレガバリンを投与してはいけない」といっているわけではない。

死前喘鳴の治療戦略とは?

西 智弘
川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター


病状が進行してきて死期が数日に迫ったときに,呼吸のたびに咽頭から「ゴロゴロ」という音が聞かれるようになることがある。こういった死期が迫った患者において聞かれる,呼吸に伴う不快な音は「死前喘鳴(death rattle)」と一般的に定義されている。近年では気道分泌亢進(increased bronchial secretions)の用語が用いられる場合もある。

死前喘鳴は,がん患者だけではなく他の病態の終末期においてもみられる現象であるが,終末期がん患者においては23~92%に死前喘鳴が認められるといわれている。がんにおいては,肺腫瘍や脳腫瘍で発生しやすく,また終末期の輸液量とも関連していると考えられている。

扇風機は効果ある?

角甲 純
国立がん研究センター東病院


呼吸困難に対する非薬物療法としての支援では,扇風機を使用した送風によるエビデンスが集積されつつある。そこで,本稿では,送風による呼吸困難の緩和について紹介する。

送風によって呼吸困難の緩和が得られるメカニズムは十分に明らかにされていないが,三叉神経第2~3枝領域や鼻粘膜への冷風刺激が関与しているという仮説が有力だと考えられている。

低酸素血症がない呼吸困難患者に酸素を投与する場面はあるか?

合屋 将
公立学校共済組合近畿中央病院


『がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016年版』(以下,2016年版ガイドライン)において,臨床疑問「低酸素血症がなく,呼吸困難を有する患者に対して,酸素吸入は呼吸困難を緩和するか?」に対する推奨は,「行わない」提案であった。2011年版では,同じ臨床疑問への推奨が,「行う」弱い推奨だったのに対し,180度の転換ということになる。この改訂は,臨床の現場に少なからぬ困惑をもたらしているかもしれない。呼吸困難は難治性で,治療の選択肢も乏しいため,貴重なオプションの1つが失われることに戸惑いが生じるのも理解できる。しかし,後述のとおり現状のエビデンスで酸素投与を推奨するのはやはり無理がある。また推奨文だけでなく解説まで読むと酸素吸入を試みる余地が残されており,酸素投与を禁じているわけでは決してない。2016年版ガイドラインの限られた紙数では十分伝わらなかった意図を,本稿で補足し解説していきたい。

がん患者の呼吸困難に対するベンゾジアゼピンの使い方

松田 能宣
国立病院機構 近畿中央胸部疾患センター 心療内科/支持・緩和療法チーム


日本緩和医療学会の『がん患者の呼吸器症状緩和に関するガイドライン 2016年版』(以下,2016年版ガイドライン)において,がん患者の呼吸困難に対して,ベンゾジアゼピンの単独投与は「行わないことを提案する」,オピオイドとベンゾジアゼピンの併用は「行うことを提案する」との記載がなされた。この記載を実臨床に利用していくにあたり,「呼吸困難を訴えるがん患者にベンゾジアゼピンを投与することはないのか?」「使用するなら,どのベンゾジアゼピンをどの投与経路でどのくらいの量で使用するのか?」「オピオイドと併用する場合には,どれくらいオピオイドを増量してから併用するのか?」「ベンゾジアゼピンを使用する際の注意点は何か?」といった疑問が生じたかもしれない。そこで本稿では既存のエビデンスと実際の臨床経験をふまえて以上の点を考察する。

フェンタニルは突出的な呼吸困難に効果はあるの?

森 雅紀
聖隷三方原病院 緩和ケアチーム


突出的な呼吸困難とは,「患者が通常感じる呼吸困難の範囲を超えるような,呼吸困難の程度や不快な感覚の増悪」のことを指す1)。突出的な呼吸困難は,がん・非がんを問わず呼吸困難を有する患者の80%前後にみられ,日常生活に大きな影響を及ぼしうる2-4)。持続的な呼吸困難の有無や誘因の有無に関わらず,特に日中に頻回にみられ,持続時間は数秒から数時間,多くの場合は10~20分程度と短いのが特徴である。

がん以外の疾患に伴う呼吸困難に対するモルヒネの効果は?

山口 崇
兵庫県立加古川医療センター 緩和ケア内科


進行がん患者の呼吸困難に対して,モルヒネをはじめとしたオピオイドを症状緩和治療として投与することは,各種教科書やガイドラインなどでも以前から言及されており,少なくとも専門領域(オンコロジー領域・緩和ケア領域)においては,ある程度は市民権を得ているように感じる。一方,各種非がん疾患の呼吸困難に対するオピオイド投与に関しては,各疾患の専門領域において,オピオイドが投与されることはまだまだ稀のように思われ,われわれ緩和ケア専門家も,非がん患者の呼吸困難に対するオピオイド投与に“慣れていない” “自信がない”という面が多いことは否めないように思う。

オキシコドン・フェンタニルはいつ使うのか?

渡邊 紘章
小牧市民病院 緩和ケア科


がん患者の呼吸困難に対するオピオイドの使用について,モルヒネ全身投与を行うというコンセンサスは,ガイドライン上も実際の臨床現場の感覚としても確立されている。一方でモルヒネの使用を迷うような臨床場面において,日本での代表的なモルヒネ以外のオピオイドであるオキシコドン・フェンタニルをどのように使用するべきか,明確な根拠は乏しく,その使用判断は臨床現場に委ねられている現状がある。本稿では,実際にわれわれが臨床現場で対面することが多い,安静時に,持続的に呼吸困難を訴える進行がん患者への治療として,現存するエビデンスをふまえてオキシコドン・フェンタニルを,どのように実践使用していくのかを考えたい。

モルヒネは実際どう使うか?

山口 崇
兵庫県立加古川医療センター 緩和ケア内科


2016年に改訂された日本緩和医療学会の『がん患者の呼吸器症状緩和に関するガイドライン2016年版』において,モルヒネ全身投与は,がん患者の呼吸困難に対する症状緩和治療として「強い推奨」がなされた。このモルヒネに関する推奨内容は, 米国内科学会(American College of Physician: ACP),米国胸部医学会(American College of Chest Physician:ACCP),欧州腫瘍学会(European Society of Medical Oncology:ESMO)の診療ガイドラインにおいても同様の推奨がなされている。本邦の臨床現場においても従来から,モルヒネ全身投与はがん患者の呼吸困難に対する症状緩和治療のmain streamとして扱われ,緩和ケアの現場では慣れ親しんだ治療といっても過言ではない。

のぞいてみよう!国際学会最前線 6
若手からベテランまで,ともに学び,そしてつながる

学会名:The Annual Assembly of Hospice and Palliative Care AAHPM/HPNA 2017(Oncology Nursing Society 42nd Annual Congress)
開催日:2017年2月22日~25日
開催地:Phoenix, AZ, USA


江川 健一郎
亀田総合病院 疼痛・緩和ケア科


The Annual Assembly of Hospice and Palliative Care は,AAHPM(American Academy of Hospice and Palliative Medicine:アメリカホスピス緩和医療学会)とHPNA(Hospice and Palliative Nurses Association:ホスピス緩和ケア看護協会)の合同年次総会で,3,000人以上の緩和医療関係者が一堂に会する年に一度の催しです。
公式パンフレットにあるように,「明日から患者のケアに使える知識を学び」「自らの内なる情熱に再び火を点け」「臨床仲間・研究仲間とつながる」場所として,教育セッションは合わせて200以上が開かれました。国際学会参加はまったくの初めてで,ある意味「腕試し」のつもりで参加した学会でしたが,事前の予想以上に得るものが多い学会となりました。

のぞいてみよう!国際学会最前線 5
国際学会で得た仲間から学び協働する

学会名:第42回米国がん看護学会
(Oncology Nursing Society 42nd Annual Congress)
開催日:2017年5月4日~7日
開催地:アメリカ,デンバー


宮下 美香
広島大学大学院医歯薬保健学研究科 老年・がん看護開発学


Oncology Nursing Society( ONS)は,がん看護学と患者および家族へのケアを発展させること
を目的とし,1975年に米国で設立されました。現在,会員数は39,000人を超え,がん看護の実践・教育・研究をリードする学術団体として発展しています。
ONS 学会は,毎年4月もしくは5月に開催され,第42回の今年は,23カ国から4,071名の参加を得て盛会に終わりました。学会では多くの講演・発表が行われますが,今年の特徴として,口頭発表では「Best of ONS Abstracts」として選出された16演題の発表があったことが挙げられます。ポスター発表では,「Clinical Practice」「Leadership/Management/Education」「Research」に分かれて,それぞれ286演題,108演題,135演題の発表があり,すべてePosterでした。指定の時間帯に,ポスター発表会場に用意されているTVモニターに演者のポスターが映し出され,演者は10分間TVモニターの前で発表,ディスカッションを行うという形式でした。

仕事人の楽屋裏 17
濵本千春

「看護って何?」の答えを探すために訪問看護を選びました。幼いころから看護師は身近な存在であり,自然な選択でした。しかし,看護学生になると「看護って何?」に納得できる解答が得られないまま卒業しました。
就職1年目に同期が自分の勤務先の病棟で療養することになり,「何で私なの……。皆と同じように働きたい……」と大粒の涙を流す彼女の横でただ聴くことしかできませんでした。同じころに父ががんになり,できることを探しましたが,予想以上に何もできない自分に葛藤しました。私は「○○病院の△△病棟勤務の看護師」という肩書と環境のなかでしか仕事のできない,ただの20歳代の女性なのだと気がついたのでした。

えびでんす・あれんじ・な~しんぐ(EAN)─実践力を上げる工夫<6>
味覚変化─その人なりの対処方法を見つけよう

海津 未希子(慶応義塾大学大学院 健康マネジメント研究科)


味覚変化は,①舌や軟口蓋に分布する味蕾,②唾液(味蕾は,液質のものに溶けた状態のものを感知する),③味蕾で感知された信号を脳に伝える脳神経(顔面神経・舌咽神経・迷走神経)のどれかが障害されると発生します。化学療法を受ける患者では45~84%に味覚変化が生じますが1),詳細な実態については不明な点が多く,支持療法も確立されていません。研究の数も少ないのですが,レジメンを限定して行われた最近の研究と,少し古いですが,看護師主導で行った介入研究を紹介します。