早期からの緩和ケア コトハジメ
2010年にTemelらの「早期からの緩和ケア」の比較試験がNew England Journal of Medicineに発表され,国際的に大きな反響を呼んだ。以降,「早期からの緩和ケア」の追試が数多く行われ,米国臨床腫瘍学会(ASCO)など主要学会から進行がんの診断早期から緩和ケアの導入を行う推奨が出されている。また昨年には,がん治療と緩和ケアの理想的な「統合」のあり方の国際的な合意も発表された。同時に緩和ケアを広める施策や啓発活動が広まり,国内ではがん医療において「診断時からの緩和ケア」が提唱されている。
しかし,学術的な知見や行政のかけ声が先行して,臨床現場でどのように実践に落とし込むかは,ほとんど議論されてこなかった。そもそも『「早期からの緩和ケア」とは何を指すのか』『わが国の患者・家族はどのような「診断時からの緩和ケア」を必要としているのか』『いつ・だれが・どこで・どのように「診断時からの緩和ケア」を提供するのが患者・家族のためになるのか』『どのような施設・地域でどのような実践モデルが望ましいのか』,これらを十分に議論することが,今後の実践には不可欠である。
本特集では,まず「早期からの緩和ケア」と「診断時からの緩和ケア」という言葉を改めて整理する。次に,日本において有効と思われる「診断時からの緩和ケア」の臨床モデルを考える。そのうえで,それらの臨床モデルが国内でどのように実践されているのか,どのような課題や改善点があるのかについて,実例にもとづいて紹介する。
本特集が,がん診療や緩和ケアに従事する現場の医療者,体制を構築される管理者の方々の参考になれば幸いである。
〔特 集〕早期からの緩和ケア コトハジメ
企画担当:森 雅紀,海津未希子
特集にあたって…森 雅紀,他
「早期緩和ケア」「オンコロジーと緩和ケアの連携」「がんと診断された時からの緩和ケア」のちがい…釆野 優,他
診断時からの緩和ケアを成り立たせる臨床モデルは何か?…森田達也
看護師オンデマンド型緩和ケアチームで実践する診断時からの緩和ケア…海津未希子
看護師が柔軟に対応するがん患者支援システムの構築について…武見綾子
外来・病棟看護師にできること…児玉美由紀
Column 1:大学病院における「腫瘍内科・緩和ケア科兼任医師」の役割…吉田健史
Column 2:日本での実証研究の今…松本禎久
〔連 載〕
◆日本のがん疼痛とオピオイド量の真実(3)
日本のがん患者の疼痛の頻度とPain Management Indexに関するメタ分析…高橋理智,他
◆いま伝えたいこと─先達から若い世代に(18)
若いころに悩み「仏教の教えに看護と看取りの原点」を学んだ者として…藤腹明子
◆緩和ケア口伝─現場で広がるコツと御法度(19)
・High Flow Nasal Cannula(HFNC)の使い方…亀井千那
・がん化学療法中の患者に対するアズレンスルホン酸ナトリウム・グリセリンスプレーによる口腔粘膜炎予防…二村舞子,他
・腹水貯留やサルコペニアによる立位動作困難を緩和する方法─車椅子や便座の補高について…吉田奈美江
◆落としてはいけないKey Article(19)
実臨床でどうしたらいいかわからないことを「心理実験」で明らかにする…森田達也,他
◆FAST FACT(19)
ディグニティセラピー…小森康永
◆仕事人の楽屋裏(19)
向山雄人
◆えびでんす・あれんじ・な~しんぐ(EAN)─実践力を上げる工夫(8)
放射線性口腔粘膜障害…後藤志保
◆のぞいてみよう! 国際学会最前線(8)
国内で国際会議を体験する─ 第2回がん緩和ケアサミットに参加して…川村三希子