緩和ケアにおけるがん患者の家族ケア
家族の一員である患者が生命を脅かされる疾患に罹患した時,それは単に患者個人の問題にとどまらず,生活を共にしている家族に,ひいては家族全体にも大きな影響を及ぼすことになる.その一方で,家族の形態は夫婦制家族を中心とする小規模化傾向にあり,しかも多様化しているため,誰を家族として捉えてケアすればよいのかに戸惑う場面に多々遭遇する.また,患者の状態に応じた役割や機能の再配分のための調整が必要となるが,家族が果たす役割も急速な変化を遂げており,誰がどのように再調整を行えばよいのかを家族だけでは決められず家族ダイナミクスが崩れ,危機状態に陥ることもある.
本特集では,緩和ケアにおいて多様化・複雑化した家族に,より充実したケアが提供できるように,家族ケアの基盤となる家族の捉え方や家族看護論についての理解を深め,それぞれの家族のライフサイクルや状況に応じてどのように家族をケアしていけばよいのかを考える.
まず,家族ケアの基盤となる家族の捉え方について把握するために各専門領域における家族の概要をおさえ,次に家族看護論の 1 つの例と緩和ケアにおける適応について理解し,家族への援助を円滑に行うために欠くことのできないコミュニケーション(話すことと聴くこと)について取り上げる.そして,家族のライフサイクルに応じて生じる家族の課題とケアのあり方,患者の病状の進行に伴って生ずる家族に共通にみられる課題とケアのあり方を検討する.さらに家族ケアが行われる場によりどのような援助の違いがあるのかについても検討する.また,急変時や鎮静を開始する時など家族が危機状態にある場合,どのようなケアが適切であると考えるのか,どのような点において家族へのケアが難しかったと感じるのか,それぞれ事例をあげてどのような援助が必要であるのかについて具体的
に述べる.最後に,医療者ではない立場の方々から家族ケアの実践に際して見逃しやすい事柄や配慮すべき点についてコメントをしていただく.
本特集が,緩和ケアにおいてさまざまな状況で課題を抱えて苦悩する家族をどのように支えたらより良いケアが提供できるのかについて検討する際の指針となることを期待する.
目次
Ⅰ.家族をどう捉え,どう理解するか
1.社会的・文化的中心に位置づけられる日本の家族
2.社会学的にみたわが国の家族
3.心理学的にみたわが国の家族
4.看護学的に見たわが国の家族
A.家族の特性と家族ケアの理論
B.家族ケア理論の応用と実際
Ⅱ.家族ケアに求められるコミュニケーション
1.家族ケアにおけるコミュニケーション
2.傾聴と家族ケア
3.対人援助からみた家族ケア
Ⅲ.人生の時期と家族ケア
1.児童期・思春期の患者と家族ケア
2.青年期の患者と家族ケア
3.成人期の患者と家族ケア
4.中年期の患者と家族ケア
5.老年期の患者と家族ケア
Ⅳ.こんな時の家族ケア
1.治療におけるインフォームド・コンセントと家族ケア
2.積極的治療から緩和ケアへの移行時における家族ケア
3.がん進行期の悪い知らせを否認する家族のケア
4.ギアチェンジにおける家族のケア
5.キーパーソンの患者を亡くす家族へのケア
6.パートナーであるがん患者を亡くす配偶者へのケア
7.看取りと家族ケア
8.死別後の家族ケア
Ⅴ.いろいろな場での家族ケア
1.病院における家族ケア‐一般病棟の看護師の立場から
2.介護医療型医療施設における家族ケア
‐認知症を伴った患者の家族ケア
3.病院と在宅をつなぐ家族ケア
4.介護施設における家族ケア
5.在宅療養における家族ケア
Ⅵ.こうすると違ってくる家族ケア
1.急変時の家族ケア
2.鎮静時の家族ケア
3.せん妄時の家族ケア
4.予測より死が早まった時の家族ケア
5.介護力を高める家族ケア
6.死後のケアにおける家族ケア
7.コミュニティと家族ケア
8.在宅で安心して看取るための家族ケア
Ⅶ.こうして良かった,こうすれば良かった家族ケア
1.患者の病状を否認し,回復を願う家族
2.予期悲嘆が強い家族
3.家族関係を再構築できた終末期がん患者と家族
4.患者に病気を伝えることについて悩む家族
5.病状理解の困難な家族
6.医療情報に詳しい家族
7.治療を強く望む家族
8.経済的な問題を抱える家族
1.今,家族が求めていること
2.電話相談に教えられる家族ケアの在り方
3.背中はずっと温かかった
4.医療者に求められるアート感覚
5.心遣い
6.冷たい家族と温かい家族への対応
7.闘病記からのメッセージ
8.医療者によるグリーフケアの必要性とその意味