スピリチュアルケアの潮流-研究・思想とケアをつなぐ
●特集にあたって
がん患者に対する緩和ケアの広がりとともに,患者の痛みや苦しみを単に身体の視点から緩和することから,全人的な観点からのまなざしやケアすることの重要性が認識されている.医療従事者にとって全人的に苦悩する患者へのスピリチュアルケアは欠くことのできないケアとして位置づけられ,緩和ケアが必要とされるさまざまな臨床において身近なケアの課題として議論されている。一方,近年,マスコミやメディアにおいて“スピリチュアル”という言葉が数多く取り上げられ,その捉え方は多様な広がりをみせている。
スピリチュアルペイン/ケアに関する研究は研究者の数だけその定義があるといわれるほど,それぞれの研究者の立場によってその捉え方は異なり,そこで示される概念も多岐にわたっている。このように混沌とした状況にありながらも,スピリチュアルケアへの取り組みは,概念の開発の時期を経て実証的な研究へ,さらには実践へと広がりをみせている。
本特集では,かねてからスピリチュアルケアに取り組んできた緩和ケアの領域に焦点を絞り,まずスピリチュアリティ,スピリチュアルケアの概念は歴史の中でどのように形成され,理解されてきたのかについて概説し,スピリチュアルケアについて考えるうえで必要な基本的な知識を整理する。次に,研究的な視点から,WHO(世界保健機関)の提唱するスピリチュアルケア,スピリチュアルケアとQOL との関連などについて説明する.このような状況の中にあって,具体的には,どのようにスピリチュアルケアを実践しようとしているのか,異なるバックグラウンドをもつ専門家から活動や取り組みを紹介する。同時に,現場ではどのようなケアが実践されているのかについても,研究に基づいて提示する。
本特集を通じて,緩和ケアに携わる人々がスピリチュアルペインとケアについての知識を整理し理解を深めて,これまで以上に,より充実したスピリチュアルケアの研究や実践につながることを願っている。
〔特集〕スピリチュアルケアの潮流-研究・思想とケアをつなぐ
●特集にあたって
スピチュアルケアの源流と展開
WHO Quality of Life 調査におけるスピリチュアリティ
スピリチュアルケアガイドの作成―プロジェクトの背景
スピリチュアルケアをこう考える
スピリチュアルケアの学術的・学際的研究と全人的ケア
スピリチュアルケアにおける教育と研修
スピリチュアルケアと宗教的ケア
スピリチュアルケアと臨床哲学
進行がん患者へのスピリチュアルケア―生きられた経験の現象学的アプローチ
コミュニティを基盤としたスピリチュアルケア
―緩和ケアへの公衆衛生的アプローチ
●ショートレビュー
緩和ケアとスピリチュアルケア
●らしんばん
Children First ―まず子どもたち,それから私たち
●いのちの歌
チャレンジ
●コミュニケーション広場
スペース・ターミナル・ケア観劇記―ホスピスの精神が挑戦する未来
●暮らしのなかのリンパ浮腫ケア〈6〉
がん治療とリンパ浮腫ケア― QOL を維持すること
●R E P O R T
第2 回日本緩和医療薬学会年会
日本スピリチュアルケア学会2008年度学術大会
第32 回日本死の臨床研究会
●特別寄稿
「ディグニティ・セラピー」Q&A ―第13 回日本緩和医療学会
学術大会ポストカンファレンス特別ワークショップより
●現場で使える臨床心理の見方〈7〉
古くて新しい器―マインドフルネス
●緩和ケア―日常業務の知恵〈15〉
症状緩和(1):薬物療法概論1
●在宅ホスピス物語〈17〉
最期の知らせ―生活を支えるということ
●海外事情
英国ホスピスの旅(2)―在宅ホスピスケアの多様なプログラムと国を挙げての取り組み
●原 著
終末期患者が見ている世界の現われ方から考察した実存的苦しみ―「遠のき」と「隔たり」による孤独からの解放