小児緩和ケア―限りあるときを生きる子どもと家族を支える
子どもが亡くなりゆくことは,子どもの親だけでなく医療者にとっても受け入れることが難しく,子どものQOL よりも延命治療が優先されることが少なくない.さらに,小児がんなどは,成人と比べ治療に反応することも多く,緩和ケアへの移行が難しいという現状がある.
小児緩和ケアについてWHO(世界保健機関)は,“It begins when illness is diagnosed, and continues regardless of whether or not a child receives treatment directed at the disease”と述べている.すなわち,小児緩和ケアは治癒が望めなくなった時から始まるのではなく,病気や障がいが診断・特定された時点から,その軌跡の中で取り組まれる必要がある.わが国では,がん対策基本法の成立とともに,がん医療においては早期から緩和ケアを導入することが医療者の義務とされているが,子どもの緩和ケアはまだまだ立ち遅れている.
小児緩和ケアの対象は,がんやエイズのみならず,NICU(新生児集中治療室)に入る先天異常のある子どもや,神経・筋疾患をはじめとするさまざまな程度の障がいを持ちながら病院や家庭で長期療養を必要とする難病の子どもたちも含まれ,これは成人とは異なる特徴である.また,子どもたちは,成長発達の途上にあり,大人と違った物ごとの捉え方や表現をするため,子ども特有のケアや多職種でのチーム医療が重要である.さらに,身体的苦痛の緩和だけでなく,親やきょうだいとの関係や,遊び・勉強・友だちとのつながりの中で,「子どもらしくいること」「その家族らしくいること」も大切に考えていかなければならない.したがって,遊びや教育などの専門職が,チームメンバーとして重要であることも,成人の緩和ケアと異なるものであろう.
病気や障がいを持ちながら生活している子どもたちにとって,家族(親やきょうだいを含む)の存在は重要であることはいうまでもない.そして,さまざまな自己決定においては,子どもの最善と親の最善が対立することも多く,医療・看護の難しさを感じる医療者も多いだろう.たとえお別れの時が来ても,子どもと家族双方にとって安寧な終末期になるよう,治療の軌跡の経過の中でサポートして行くことが大切である.
本特集では,子どもの緩和ケアに携わるさまざまな職種の考え方や取り組みに加え,実際の家族の声を大切にし,小児緩和ケアの特殊性や問題点を整理し,限りあるときを生きる子どもと家族を支えるための全人的ケアの方策を提言した.そして,読者が関わる子どもたちへのケアの一助としていただくとともに,小児緩和ケアの今後の発展につながることを願っている.
〔特集〕小児緩和ケア―限りあるときを生きる子どもと家族を支える
特集にあたって
小児緩和ケアの現状と課題
緩和ケアを必要とする子どもたち
小児緩和ケアにおいて看護師にできること
小児緩和ケアにおける身体的な苦痛の緩和
疼痛マネジメント
疼痛以外の症状マネジメント
小児緩和ケアにおける病院での遊び
小児緩和ケアと教育
子どものデスエデュケーション
子どもを亡くす家族のケア
小児緩和ケアにおいて緩和ケアチームの果たす役割
在宅での小児緩和ケア
医療的ケアが必要な子どものレスパイトケア
―地域の診療所での日中預かりの実践
地域で支える英国の小児緩和ケアの実際
米国における小児緩和ケア
子どもとの関わりから学ぶ
1 人の子どもに10 人のボランティア
子どもに学ぶ「現実」を受け入れ,乗り越える力
陽からのご褒美
ショートレビュー
小児緩和ケアを取り巻く課題
らしんばん
今後の在宅緩和ケアについて考えること
コミュニケーション広場
「リレー・フォー・ライフ」という時間
いのちの歌
母からの贈り物
海外事情
カンボジアのPalliative Care 2
―狂犬病と緩和ケア
最期のことば集2
3 つの和解
緩和ケア―日常業務の知恵22
症状緩和(8):疼痛⑥
カンファレンスから学ぶ緩和ケア7
在宅療養支援診療所におけるカンファレンスの実際
―あおぞら診療所の場合
R E P O R T
第15 回日本臨床死生学会大会
KATSUDO 津々浦々2
在宅緩和ケアの意義と現状
―さくさべ坂通り診療所の取り組み
オピオイドローテーション☆私はこうしている4
複数のオピオイド鎮痛剤を使いこなすには
視 点
地域における緩和ケアの連携を促進する取り組み
―フォーカスグループの有用性
調査報告
死生観を涵養するための教育現場へのサポート
―緩和ケアの専門性を活かして