死生観を育む―現場の“なんで?”を埋める知恵
ターミナルケアという呼び方が緩和ケアに変わり,緩和ケアはさまざまな領域に広がりをみせながら患者のQOL の向上が実現されつつある.その一方で,生まれてきた人間が死を免れないという現実は,相変わらず厳然と生活や医療の現場に存在し続けている.緩和ケアあるいは全人的ケアの視点から患者とその家族に寄り添い,ケアする側とケアされる側の関係性を含めて患者や家族のあり方を注意深くみつめていると,死に対する感じ方や考え方がその人の生き方や死に方に大きな影響を与えているだけではなく,死生観そのものも時代の流れとともに社会のあり方を反映しながら変化しつつあることを実感する.
今回の特集は,死生観という視点から,その人の人生や世界に対する考え方や感じ方のパターンが,看取りの現場で展開する人間関係にどのような影響を与えているかについて考察するための情報を幅広く提供することを目指した.「死生観はより良いケアを提供することと,どのように関連しているのか?」「良い死を迎えるためには,どのように死生観を育んでいくことが必要なのか?」「なぜ,グリーフワークは必要なのか?」「死生観と死生学とは,どのようにつながっているのか?」こうしたテーマについて,現場で汗を流し試行錯誤を続けている医療者から死生学の研究者にいたるまで,幅広い領域の先生方から多様な視点を提供していただいた.
死生観を育むことによって,生という日常と死という非日常という二元論を超えて,現場の“なんで?”を埋める知恵が得られるかもしれない.そして,それがケアする側とケアされる側とが共にいのちの光を輝かせる道を照らし出す灯火とならんことを期待する.
〔特 集〕死生観を育む―現場の“なんで?”を埋める知恵
特集にあたって
緩和ケアの現場で死生観を考える
精神科医療の現場からみた死生観
沖縄という風土からみた死生観―南島の巫病と民俗精神医学
在宅ケアからみた死生観―死と向き合う場としての在宅
ホスピス診療所からみえてくる死生観
看護と死―感情労働の視点から
小児科臨床におけるいのち―カイロスとシンリズミア
悲しむ力と育む力
●現場で出会った死生観を持つ方々
身体の声を聞こう
ホスピスケアを提供するとは?
「旅立ちのタイミング」の不思議
●ショートレビュー
英米における医療従事者のための死生観教育
●らしんばん
余命について
●解 説
緩和ケアに関連した2010 年度診療報酬改定について
―病院の視点から
―在宅の視点から
●オピオイドローテーション☆私はこうしている〈7〉
薬剤師としてオピオイドローテーションを考える!
●最期のことば集〈5〉
子どもに死を知らせる
○いのちの歌
ちょっとした手助け
●R E P O R T
第13 回臨床パストラル教育研究センター全国大会
第15 回日本緩和医療学会学術大会
●経験したことを伝えていこう研究論文の書き方〈2〉
「はじめに」を書く
●緩和ケア―日常業務の知恵〈25〉
症状緩和(11):嘔気・嘔吐?
●特別収録
ホスピス緩和ケア協会の当面する課題と中期展望―私たちは何を目指すのか
●在宅ホスピス物語〈26〉
癒しのあかりのうた(2)―最期まで人生の主人公として
◇調査報告
当院で死亡した悪性腫瘍全症例の調査から検討された緩和ケアチームの問題点と今後の課題
◇症例報告
告知内容が部分的であった患者へのカウンセリング