緩和ケアを拓くナラティブ
緩和ケアにおいて,患者の語りに耳を傾けることの重要性は改めて強調するまでもない.それなのに,
なぜあえてナラティブという概念を持ち込む必要があるのだろうか.本特集の各論文はそれぞれ,その
問いに対する答えとなると思うが,ここでは以下の4 点について述べておきたい.
1 つはナラティブという概念の背景に(社会)構成主義の考え方があり,医学的概念を相対化する力
をもっているということが挙げられる.たとえば,医療者が「痛みは取り除くべきもの」という考えを
強くもっている時,患者の思いから知らず知らずのうちに離れてしまうことがある.医療者側の思いを
カッコに入れて話を聞くために,物語という観点が有用となる.
2 つ目は,緩和ケアにおいてもエビデンス・ベイスト・メディスン(EBM)であることの重要性が強
調されるが,医療の実践はあくまで個別な対応が求められ,EBM からナラティブ・ベイスト・メディ
スン(NBM)が展開してきた.エビデンスを補完するものとしてナラティブという概念が意味をもつ.
3 つ目に,ナラティブには「つなぐ」機能があり,医療において,たとえば病院と在宅をつないだり,
チーム医療を行ったり,患者と医師の関係を考えるうえで有用な視点を与えてくれる.
4 つ目は,ナラティブというキーワードは医療を超えて,文学・哲学・人類学・心理学などさまざま
な学問分野でキーとなる学際的な概念であるため,医療を学際的な観点から考える全人的なものにする
切り口を与えてくれる.
こういった背景を踏まえて,本特集では緩和ケアについてナラティブを切り口としてさまざまな角度
から考えてみたい.
〔特集〕緩和ケアを拓くナラティブ
特集にあたって
緩和ケアという物語
ナラエビ緩和ケア学事始め
緩和ケアにおけるナラティブ医療倫理
ナラティブ・アプローチの危うさ
緩和ケアの場における「問わず語り」と「聞き語り」
がん医療と家族の物語
緩和ケアにおけるナラティブ・ベイスト・エデュケーションの可能性
緩和ケアにおけるナラティブ・ベイスト・リサーチ
ナラティブのトピックス
パラレル・チャート
緩和ケアにおけるナラティブのすり合わせ
健康と病いの語りデータベース(DIPEx-Japan)
らしんばん
光と影―生と死を繋ぐもの緩和ケア
―日常業務の知恵29 家族への病状説明(1)
T O P I C S
黒岩卓夫の思想と行動――ある地域医療の実践(下)
「往きの医療」と「還りの医療」の視線によって“浄土”をめざす
医療コミュニケーションの“コツ”― Experience-based Medicine3
夜が眠れない
いのちの歌
祈願
海外事情
がんと生きるライフ・イン・サンフランシスコ3
―手術・治療を終えた人へのサポート
最期のことば集9
最後の跳躍
在宅ホスピス物語29
在宅ホスピスの広がり②―認知症の在宅ホスピス
R E P O R T
第25 回日本がん看護学会
緩和ケアチームは,その時どう動いたか?2
まず求められている問題にアプローチ
緩和ケアチームの客観的な評価とフィードバックが
病棟スタッフの自信につながった事例
原 著
病院と地域とで行う連携ノウハウ共有会と
デスカンファレンスの参加者の体験
症例報告
トリアムシノロン水懸注の腹腔内投与が
悪性腹水の症状緩和に有効であった4 症例