つながりをいつまでも心に―東日本大震災といのち
東日本大震災は,われわれ日本人の想像を超えた被害となった。それから10 カ月が経ち,原発関連の問題は深刻さを増す一方,被災者であっても震災直後に起きた詳細については次第に記憶が薄れていっている。しかし,震災からの数週間は,ライフラインの途絶・医療提供のゆがみ・そして多くの死に向き合う過酷な日々があった。災害直後の医療提供や,病院における災害対策は他書に譲るとして,本誌では緩和ケアという視点で,この災害が私たちにもたらしたものを明らかにしたい。ほとんどの住民が身近な死に直面した東北沿岸部の市町村が象徴的であるが,このように非常に多くの死に向き合うことは,図らずとも私たちの死生観を変え,医療に対する捉え方も変えていくと推測される。すでに,震災後直後から医療でできることは限定されていたという報告がある傍ら,これまで医療側が連携に戸惑いを感じていた宗教者との関係が問われたという。
そこで本特集では,被災者であり,支援者でもある岡部健氏を企画担当に迎え,はじめに東日本大震災と緩和ケアについて総括していただいた。次に心のケアとして,被災地で実施された宗教者の活動,民族・文化的特徴と被災者の心について,また被災者のスピリチュアルケア・グリーフケアも含めた心理的側面からの心のケアについて述べていただいた。そのあと,医療面において震災以降,いっそう必要性が認識できたものとして,医療のマネジメントや地域連携を被災地で実践された方々から,体験をもとに解説していただいた。さらに,さまざまな立場で緩和ケアに携わる人たちから,震災直後から実践したいくつかの試みについて述べていただき,被災者と緩和ケア従事者を支える方策を考える機会とした。
本特集から,緩和ケアに関わる人が,平穏な日常から備えるべきこと・考えるべきことを知り,災害直後も,震災後数カ月経つ今でも,求められる緩和ケアを学ぶ機会となれば幸いである。
〔特集〕つながりをいつまでも心に―東日本大震災といのち
特集にあたって……角田直枝,他
東日本大震災と緩和ケア―在宅と被災の現場から考える……岡部 健
心の相談室の活動……金田諦應
災害後の悲しみに寄り添う支援のあり方……井上ウィマラ
医療・介護マネジメントの実際―在宅医療の現場から……田中嘉章
大震災時の病診連携について……丹野尚昭
「柔らかい想像力」なしには緩和ケアに未来はない……尾崎 雄
緩和ケア従事者の目線
携帯電話のメーリングリストを活用しよう……佐藤隆裕
災害時救護活動におけるこころのケア―石巻市と東松島市の場合……日下 潔,他
つながりが力に……高橋美保
「被災地でない被災地」のつらさ……角田直枝
らしんばん
医療でなぜ「哲学」なのか……阿部泰之
グッドデス概念を使って難しい状況を理解しよう2
残された時間を知るべきか? 死を意識せずに過ごすべきか?
―自分らしく生き抜いた事例……平井 啓,他
緩和ケアチームはその時,どう動いたか?6
近隣病院の緩和ケアチームが結ぶネットワーク
―刻々と変化する患者の希望に対応するために……円城寺昭人,他
架 け 橋
緩和ケア×哲学4 ……苫野一徳,他
いのちの歌
気づきをありがとう……朝倉雲鶴
コミュニケーション広場
海のみえる森芸術祭―子どものホスピスに集う若き芸術家たち……甲斐裕美
わたしのちょっといい話2
在宅での看取り―さまざまな人生との出会い……永井恵子
R E P O R T
第35 回日本死の臨床研究会
日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団設立10 周年記念講演会
第1 回鳥取いのちフォーラム
海外事情
Our Lady’s Hospice における多職種チームケア1……門林道子
体験者の語りを聴く1
今の自分を基準にする……射場典子
在宅ホスピス緩和ケアにおけるチームアプローチ2
チームアプローチの形と在宅緩和ケア……川越 厚,他
〔投 稿〕
原 著
消化器がん終末期患者の家族における体験プロセス……田中久美子,他
調査報告
市民の緩和ケアに対するイメージの変化……古村和恵,他
症例報告
ICU 入院・人工呼吸器管理中の患者のホスピス病棟転入院を通して……下稲葉順一,他