口腔粘膜吸収性フェンタニルと突出痛
突出痛は,がん患者において頻度が高い症状であることが以前より報告されています。突出痛は,がん患者に対して,身体面のみならず心理社会的な側面など,さまざまな影響を与えることが報告されており,がん患者に対する質の高い疼痛緩和治療にとって,適切な突出痛への対応は,不可欠と考えられています。これまで,伝統的に,突出痛(=痛みの増強)に対しては,オピオイド速放製剤によるレスキュー・ドースで対応することが,広く行われてきました(図1)。
しかしながら,この度,わが国でも複数の口腔粘膜吸収性フェンタニル製剤(アブストラル®,イーフェン)が発売され,より質の高いがん突出痛への治療が期待できるようになりました(図2)。しかしながら,その一方で,治療手段が増えたことにより,突出痛への治療戦略が複雑化したという一面もあります。
口腔粘膜吸収性フェンタニル製剤(以下,粘膜吸収フェンタニル)に関しては,ことさら,その使用法(最小用量からのタイトレーション,使用回数の制限)に目が向けられますが,実際は使用法よりも,がん突出痛を適切に診断することが求められるようになり,「粘膜吸収フェンタニルの使用が適応になる症例を適切に選択する」ということが,これまでの診療との最大の変更点であるといっても過言ではありません。
このように,がん突出痛に対する診療に関して,緩和ケアに従事する医療者は,これまでよりも一歩進んだ,突出痛に関する知識を習得し,適切な突出痛治療薬の選択を行うことが求められるようになったと言えます。
今回の特集では,粘膜吸収フェンタニルが使用できるようになった現在,改めて,「がん突出痛」とがん突出痛治療「レスキュー」の概念を整理して粘膜吸収フェンタニルの使用に関する基礎知識の地固めをするとともに,粘膜吸収フェンタニルの適応選択に注目して,臨床現場で直面する適応を検討するが悩むシチュエーション(controversialな場面も含めて)に関して,臨床のエキスパートに解説をいただきました。
本特集が,読者のみなさんの突出痛治療に関する理解を深める一助となり,より多くの患者さんのより良い鎮痛とQOLの向上につながればと願っております。
〔特 集〕口腔粘膜吸収性フェンタニルと突出痛
特集にあたって…山口 崇,他
改めて突出痛の概念を考え,その特徴を知る…山口 崇,他
レスキュー薬再考―しっかりとした知識をもとに…森田達也
●口腔粘膜吸収性フェンタニルについてのQ&A
飲めない」だけの理由で使っていいの?…小杉寿文
予防的投与は可能か?…大坂 巌
タイトレーションをするか?しないか?…瀧川千鶴子
オピオイド注射製剤とフェンタニル口腔粘膜吸収製剤によるレスキューの比較…関根龍一
アブストラル®舌下錠とイーフェンバッカル錠,どちらを使う?…岡本禎晃
在宅でどう使う? …中島一光
●ちょっと待った!!
口腔粘膜吸収性フェンタニル製剤の“その使い方”…山口 崇,他
〔連 載〕
◆緩和ケア口伝―現場で広がるコツと御法度〈1〉
○皮下点滴を始める時のコツ…西 智弘
○皮下点滴のトラブルシューティング!
落ちない,むくんだ,にどう対応するか?…宇野さつき
○オピオイドの眠気にアリセプト®…新城拓也
○副作用の説明しすぎに注意!ノセボ効果…新城拓也
◆いま伝えたいこと―先達から若い世代に〈1〉
死という現実をみつめる…柏木哲夫
◆落としてはいけないKey Article〈1〉
ケタミンに関する最大規模の比較試験…森田達也
◆エシックスの知恵袋〈2〉
「母には言わないで」という患者さん、決められそうにない奥さん…瀧本禎之,他
◆FAST FACT〈1〉
しゃっくり(吃逆)…山口 崇
◆生活をみる!放射線療法の看護ケア〈2〉
食道がんの放射線療法―栄養サポートがケアの要…遠藤貴子
◆家族ケアのツボ〈4〉
患者に真実を告げず,非現実的な希望を語る家族にどう対応すればいいの…児玉久仁子
◆仕事人の楽屋裏〈1〉
明智龍男
◆見学では分からない海外事情〈1〉
グローバルな緩和ケアへの扉―MASCC年次総会参加を通して…森 雅紀