認知症のあるがん患者の緩和ケア
がん緩和ケアの臨床において,「最近とみに認知症のある患者さんが増えているなぁ」という実感をもつ方は多いのではないだろうか。2015年現在,認知症高齢者数は,345万人,65歳以上人口の10%に達するといわれている。また,2025年には,470万人(65歳以上人口の12.8%)まで急増する見込みである。
この状況から,これまでは「がんはがんのプロフェッショナルに」「認知症ケアは認知症のプロフェッショナルに」と別々に緩和ケアが推進されてきたが,両者の知恵を融合させていくことが求められる。
本特集ではまず,がん緩和ケアの臨床で,「この患者さん,もしかしたら認知症なのかなぁ…」と判断に苦慮する患者のアセスメントとして,鑑別の方法と実践例について解説する。次に,「この患者さん,どうして突然不機嫌になったんだろう…」「ケアしたいのに,受け入れてもらえない…」と困る場面について,認知症ケアのプロフェッショナルから実践例と,新しいケアの考え方「ユマニチュード」の概念・実践方法を紹介する。また,がん緩和ケアに応用できる認知症の薬物療法について,そして,「認知症患者は,どのように“死”や“がんの告知”を理解するのか」について解説する。
また,在宅療養を含めたケアの場所の選択について,「意思決定をどのように形成していくのか?」「各療養場所でのケアのコツは?」「使用できる社会資源はあるのか?」についても紹介する。最後に,ケアのコツシリーズとして,「食べられない時,どうする?」「服薬管理ってどうしたら?」「苦痛・痛みのアセスメントはどうするか?」の疑問に応える内容とした。
本特集が,読者の皆さんの認知症患者への理解を深める一助となり,認知症のあるがん患者へのより良いケアと,看取りにつながれば幸いである。
〔特 集〕認知症のあるがん患者の緩和ケア
特集にあたって…森田達也,他
認知症なのかどうか診断に苦慮する患者のアセスメント―がん患者の場合の鑑別方法と実践例…浜野 淳
がん緩和ケアに応用できる認知症ケア―「じっとしていられない」「食事をしたがらない」などへの対応…西山みどり
がん緩和ケアに応用できる認知症の薬物療法…上村恵一
がん緩和ケアに応用できる認知症患者の体験の理解
…得居みのり
緩和ケアにも役立つ優しさを伝える技術―ユマニチュード
…本田美和子,他
終末期がん患者で認知症を合併している場合の療養場所の選択―意思決定支援、使用可能な社会資源…田代真理
がん患者で認知症を合併している人へのケアのコツ シリーズ
①食べられない時のアセスメント―悪液質と思ったらそうではなかった……大谷弘行
②認知症患者のオピオイドと抗がん剤指導における服薬管理のコツ…伊勢雄也
③認知機能低下のあるがん患者の苦痛の評価…荒井和子
〔連 載〕
◆いま伝えたいこと─先達から若い世代に
エリートのケアから手の届くケアへ…季羽倭文子
◆FAST FACT
におい(wound odor)…松原康美
◆緩和ケア口伝─現場で広がるコツと御法度
・腎不全があってもモルヒネを使う場合…茅根義和
・抗がん剤治療中の悪心「仕方がない」とあきらめてよい?…西 智弘
・緩和ケアスクリーニングのコツ…佐久間由美
・在宅で看取りが近いと思った時の対応のコツ…河原正典
◆落としてはいけないKey Article
倦怠感に対する精神賦活薬の比較試験の積み重ねでみえてきた緩和ケアにおけるプラセボ効果の役割…森田達也
◆エシックスの知恵袋
認知症の患者さんに繰り返される肺炎治療…。ほんとうに良いことなのか疑問です…。…瀧本禎之,他
◆生活をみる!放射線療法の看護ケア
子宮がんの放射線療法―外照射・腔内照射の特徴を踏まえたセルフケア支援が重要…後藤志保
◆家族ケアのツボ
いくら説明しても,家族のクレームが止まりません……児玉久仁子
◆仕事人の楽屋裏
田村恵子
◆見学では分からない海外事情
病気と共に生きる患者の生活を支えるために―北米での多施設での経験を活かして…鈴木 梢