心疾患・COPD・神経疾患の緩和ケア―がんと何が同じで、どこがちがうか
2017(平成28)年5月に,厚生労働省健康局長のもとに設置された「がん等における緩和ケアの更なる推進に関する検討会」においては,①約4分の3のがん患者はがん診療拠点病院以外の場所で看取られており,拠点病院以外の医療機関における緩和ケアの充実が重要であること,②緩和ケアはがん患者だけではなく,循環器疾患等の患者にも必要であること,③医師だけでなく医療従事者についても,緩和ケアの基本的な知識を身につけることが重要であること,の3点を踏まえて,がん等における緩和ケアの提供体制について,俯瞰的かつ戦略的な対策の検討が開始された。
循環器疾患とは,心疾患ならびに脳血管疾患を指し,その主たるものとして,虚血性心疾患,心不全,脳卒中(脳梗塞,脳出血)がある。循環器疾患以外では,慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease;COPD)と神経疾患が緩和ケアの適応となる重要な疾患として知られている。
本特集の企画の目的と内容は以下である。
●想定する読者の対象:今までがんを中心とした緩和ケアを実践してきた医療従事者をおもな対象とする。
●学習目標:がん疾患と非がん疾患における緩和ケアの何が同じで何が違うかを認識し,今後の学習のきっかけをつかむこととする。
●執筆者:以下の2つのカテゴリーに分類される専門家に執筆を依頼した。
①非がん疾患の緩和ケアを先駆的に実践してきた緩和医療専門家
②心血管疾患・COPD・神経疾患の専門家で緩和ケアに興味をもっている医療従事者
●内 容:心不全,COPD,神経疾患の,①疾患の特徴,②どのような患者に緩和ケアが必要か?,③特異的な症状に対するマネジメント・ケア,④急性期における意思決定,⑤症状安定期における意思決定,⑥ソーシャルワークとリハビリテーション,について概説した。
この特集が,普段がん診療に携わっていることが多い『緩和ケア』誌の読者を対象として,心血管疾患・COPD・神経疾患に対する緩和ケアの「ことはじめ」のお手伝いをすることができ,さらなる知識の探求の「きっかけ」になることを期待している。
目次
1. 総論
どのような患者に緩和ケアが必要なのか?…浜野淳
わが国の政策と診療報酬の動向…木澤義之
2.心疾患(心不全)
心疾患(心不全)の疫学(死亡数/罹患数,リスクファクター)…菅野康夫
心不全の病状と予後の評価…柴田龍宏,他
おもな身体症状への治療介入法―評価から薬物療法,非薬物療法の実践まで…大石醒悟
心不全の緩和ケアにおける看護師の果たす役割…田中奈緒子
心不全の急性増悪期における意思決定支援…高田弥寿子
長期の病みの軌跡における心不全の緩和ケア―外来から最期の時まで続ける意思決定支援…仲村直子
心不全の急性増悪期における心臓リハビリテーション…齋藤洋
心不全の緩和ケアにおける理学療法士の果たす役割―運動だけでなく意思決定支援を…川端太嗣
心疾患患者に提供される社会資源の問題点…安永環子
3.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPDの疫学(死亡数/罹患数,リスクファクター)…小林岳彦
COPDの診断と評価…杉本親寿
COPDの身体症状への評価と対応…松田能宣
COPD患者の看護…藤原美幸,他
COPDの急性増悪患者への意思決定支援…松井直人
COPDの慢性期患者への意思決定支援…與野木剛
COPDのリハビリテーション(急性増悪期)…佐々木由美子
COPDのリハビリテーション(安定期)…佐々木由美子
COPDのソーシャルサポート…小出志保
4.神経疾患
神経疾患の緩和ケア…荻野美恵子
脳卒中の疫学…松原崇一朗,他
脳卒中の検査・診断…石原稔也,他
神経変性疾患…成田有吾
神経変性疾患におけるおもな症状とその対応…富永奈保美,他
急性期脳血管障害患者の全人的苦痛に対する看護…藤本愛
神経疾患の看護ケア(安定期・進行期・急性増悪期)…野田涼子
神経疾患における意思決定支援…杉浦真
神経疾患の進行期における意思決定支援…荻野裕
神経疾患における緩和ケアの視点をもったリハビリテーション…寄本恵輔
神経疾患における患者・家族のソーシャルサポート…植竹日奈
5.非がん疾患の精神症状
精神症状のアセスメントとマネジメント―がんと非がんの違いについて…上村恵一
心不全に伴う精神症状…成田尚
慢性呼吸器疾患に伴う精神症状…船橋英樹