本書は、病いや障害を持つ人々の傍らに寄り添い、直に声を聴くことから始まる生の記録である。病いの発症により人々は、生命・コミュニケーション・身体・家庭生活・社会生活の危機を迎える。しかし危機の只中で、身体や生活に関するさまざまな試行錯誤を重ね、やがて現実を受け容れ、新しい自分となる。この変容の過程で、医療専門職や家族や同病者といった周囲の人々と改めて出会い、新たな関係性をつくりあげている。絶望の中から再び生きようとする人々にとって、出会いが意味するもの、変容がもたらすこと、そこに現れる希望の可能性を気鋭の社会学者が描きだす。
病いや障害を持ちながら〈生きる〉という人々を支える医療専門職、それを目指す学生、さらには本人・家族にとって待望の1冊。
序 章 脳卒中を〈生きる〉ということ-問題の所在
第1節 脳卒中の今
第2節 問題の所在
第3節 痛みと苦しみを〈生きる〉
第4節 「絶望」から「希望」へ-「新しい自分」を見出す
第5節 本書の構成と意義
第1章 病を〈生きる〉という経験-課題と方法
第1節 医療と病の捉え方
A 〈生きる〉というテーマ
B 疾患と病
C 医療社会学から健康と病の社会学へ
第2節 先行研究の検討
A 病人役割とその限界
B 適応モデルとその限界
C 構築主義とその限界
第3節 病を〈生きる〉ことを捉える枠組み
A 病の経験
B 〈生〉の全体性
C 「変容」への着目
D 契機(モメント)としての「出会い」
第4節 調査の概要-27人のプロフィール
A 対象者との「出会い」
B 3つの患者会
C 27人の特徴
第2章〈生きる〉ことの危機-自明な世界の崩壊
第1節 脳卒中の発症
A 突然の発症
B 自明な世界の崩壊
第2節 危機の諸相
A 生命の危機-第1の位相
B コミュニケーションの危機-第2の位相
C 身体の危機-第3の位相
D 家庭生活の危機-第4の位相
E 社会生活の危機-第5の位相
第3節 人として〈生きる〉ことの危機
A 〈生〉の統合性の喪失
B 未来を絶たれる-「治りません」
C 死への衝動
第3章 病の現れ-〈生きる〉ための試行錯誤(1)
第1節 生命の危機からの試行錯誤-第1の位相
A 救命救急医療
B リハビリテーション医療
C 訓練室での訓練
D スケジュール外の病院での訓練
E 回復への「希望」を持つ
第2節 コミュニケーションの危機からの試行錯誤-第2の位相
A 言語訓練
B 「治る」ということ
第3節 身体の危機からの試行錯誤-第3の位相
A 入院中のリハビリ訓練の困難
B 入院中の試行錯誤
C 退院後の試行錯誤
D 身体の回復
E 回復の再定義
第4節 家庭生活の危機からの試行錯誤-第4の位相
A 采配する家族
B 家族の形を変える-介護の形
C 家族のために働く-経済的状況
第5節 社会生活の危機からの試行錯誤-第5の位相
A 復職
B 通勤のための試行錯誤
C 仕事をするための試行錯誤
第4章 病の受け容れ-〈生きる〉ための試行錯誤(2)
第1節 生命の受け容れ-第1の位相
A 受け容れるということ
B 「障害受容」の陥弄
C それぞれの受け容れ
第2節 コミュニケーションの困難の受け容れ-第2の位相
A コミュニケーションのための道具
B 話せないことを受け容れる
第3節 身体の受け容れ-第3の位相
A 移動のための試行錯誤
B 身体の可能性を見出す
C 新しい身体に「慣れる」
第4節 家庭生活の受け容れ-第4の位相
A 家族が生き方を変える
B 家族をかえりみる
第5節 社会生活の受け容れ-第5の位相
A 職業生活の回復の困難-復職への障壁と断念
B 復職してからの困難
C 新しい生活
第5章「出会い」と「変容」-「新しい自分」になる
第1節 「出会い」-重要な他者との相互行為
A 医療専門職との「出会い」-フォーマル/インフォーマルな関係
B 家族-改めて「出会う」
C 同病者-仲間
第2節 他者の「変容」
A 医療専門職が変わる-制度外で支援すること
B 家族が変わる
C 同病者の中で変わる
第3節 「新しい自分」になる
A 「笑える」ようになる-「命日」と「誕生日」
B 「変容」と「持続」
終 章 再び〈生きる〉ために
第1節 〈生〉の統合化-危機の中から立ち上がる主体
第2節 病の経験-多様性に開かれる契機(モメント)
第3節 「弱い主体」が〈生きる〉
第4節 人々の声に基づく制度と社会の改革へ
おわりに
参考文献
索引