ここからは余計なお世話!?—奪わない主体性
作業療法の対象者の中には,本当は自宅に帰ることを望みながらも「家族に迷惑をかけるから」などを理由に,退院希望を言い出せない人がいる。同様に,援助付き雇用や保護的就労の場においても「他人に迷惑をかけるから」と,助けてほしいことを周囲に伝えきれない人もいる。ここでいう迷惑とは,いわゆる迷惑行為とは異なり,生活をしていれば当たり前でお互い様なことであり,「申し訳ない」とまで思わなくていい“他者の助けを得る行為”を指す。
また,森田俊彦先生の本誌コラム“関西弁精神科医の戯れ言 7(第 6 巻 2 号)”には,「もしも手厚いサービスを受けられれば,伯父の元気さが戻ってくるのだろうかと思うと,それもピンとこない。(中略)人の手を借りることを潔しとしない伯父が,最後の意地をみせている姿なのかもしれない」という一文があった。日本の医療福祉が発展し,サービス万全になったとしても,「ここから先は人の手を借りることを潔しとしない人」は数多く存在することだろう。
一方で,作業療法や介護を提供する時に,その人が自分で行えること・行いたいことまでをセラピストやケアスタッフが行ってしまい,主体性を奪ってしまうことは稀とは言い切れない。われわれ作業療法士が関わっている多くの援助,綿密な評価に基づき慎重に提供しているはずの作業療法でさえ,自立支援でなく余計なお世話になる時がある。この時,援助が自立を妨げる余計なお世話に切り換わる分岐点はどこにあるのか。また,自立を妨げることはないと判断した援助を,対象者自身が「潔しとしない」「申し訳ない」として援助を拒まれた時,あるいは援助を断ることもできず,提案に応じて対象者が頑張りすぎてしまう状態に至った時,セラピストはいかに関わってきたのか。
今回の特集では,回復期・維持期,通院(通所),長期入院(長期入所)など,さまざまな場面から援助にまつわるこの分岐点を経験した事例を紹介する。諸先輩方の実践を問い,多くのセラピストに,余計なお世話まで行き過ぎない適度な援助を再考する一助になれば幸いである。
特集 ここからは余計なお世話!?—奪わない主体性
編集担当:苅山和生
急性期病院における余計なお世話 甲斐 雅子 12
回復期リハビリテーション病棟における退院支援に潜む余計なお世話 三沢 幸史 15
余計なお世話のボーダーライン—精神科デイケアの経験から 山崎勢津子 18
就労支援に潜む余計なお世話 寺村 肇 22
地域生活支援に潜む余計なお世話—行政での経験から 大丸 幸 25
真が捉えられにくい余計なお世話—訪問リハビリテーションの立場から 毛利 雅英,他 29
余計なお世話を越えて—高齢者のリハビリテーションに携わって 吉田安祐子 35
余計なお世話に学ぶ—まとめに代えて 苅山 和生 39
あのころ いま
確からしさを,いま 山根 寛 2
ライト☆すぽっと
手のリハビリテーションとは“使っている手”をつくること−これまでの実践と,後輩育成への思い 矢﨑 潔 4
連載
Welcome to 在宅リハビリテーション
役割・居場所・参加 百留あかね 42
作業療法のアイデンティティー
作業療法ならではの魅力とその核を伝えることの意味—「作業療法のアイデンティティー」の開始にあたって 新井 健五 45
子どもといる風景 diary
相談し合おう!そうしよう! 田中 亮 52
現場で使えるアクティビティ
日常生活動作から効果の大きいアクティビティをみつける 高橋 克佳 56
わたしのワークライフ・スタイル
自分らしく働き続けるために—OT として・女性として働いた 20 年 宇田 薫 58
失敗に学ぶ
失敗って失敗??? 山本 伸一 61
有効活用しよう! リハビリテーション実施計画書
リハビリテーション実施計画書の有効活用 佐藤 浩二 65
重度障害者への活動分析アプローチ
重度障害像を呈する片麻痺患者への関わり 新里 光他 74
現場で使えるシェーマ!
作業療法教育で使ったシェーマ 苅山 和生 81
リハビリテーションと上肢運動学
PIP 関節の痛みとその制御 矢﨑 潔,他 83
がん患者のリハビリテーション
がん治療に伴う二次的障害としての廃用症候群①—身体的側面から 安部 能成 87
一枚の絵
天使の彩り 小坂 美季 49
パント大吉のどこでも遊ぼ!
○○さん探し パント大吉 50
レポート
第 53 回 日本病院・地域精神医学学会総会 田中 文人 70
第 21 回 全国介護老人保健施設大会 岡山 橋本 薫 71
日本高次脳機能障害学会 第 34 回学術総会サテライト・セミナー 狩長 弘親 72
ケアマネジメント群馬フォーラムⅦ in 富岡 児玉 努 73
アラカルト
書評 41
インフォメーション 44,80,93
既刊案内 55
本の街道そぞろ歩き 64
次号予告 94