力を信じ,任せてみよう!高次脳機能障害
この特集のきっかけは,高次脳機能障害のある人を対象としたグループワークでの経験からだった。地域の福祉センターである当センターには,さまざまな症状をもつ高次脳機能障害のある人たちが集まっている。そうした人たちがグループワークを行うにあたり,スタッフの側で,ある程度プログラムを構造化して提供していた。しかし,そうすればするほど,現実社会から乖離している気がしてならなかった。たとえば,外出場所を決める話し合いでは,司会者のために司会マニュアルを作った。マニュアル通りにはできる。スタッフが気を配り,グループワークとして外出には行ける。でも,自分の余暇時間に本当に外出に行けるの? ナニカチガウキガスル…。
2010年度,新たなグループを立ち上げた。そこでは,自分でプログラムを考えてもらう時間をつくった。すると,面白いことが起こった。自分のやりたいことに周りの人を誘い,ほかの人が困っていれば協力を申し出るなど,対象者間のコミュニケーションが増え,グループダイナミクスが動き出したのである。そして,スタッフはちょっと遠くから眺めている方が,うまくいくようになった。「対象者の力を信じて,任せてみよう」と思った経験だった。1人でできることも大切だが,誰かと協力してやり遂げられれば,それでもいいではないか。むしろ,社会の中ではそうした力が大切に違いない。この経験が,今回の企画の背景にある。
私が気づいたことを,もうすでに実践している作業療法士(以下,OT)たちがいる。また,「任せたいけど,任せられない…」とじれったい思いをしているOTもいることだろう。特に,対象者の希望が明らかに現実的でなかった場合,OTは自分の専門性と対象者の希望との間で悩むことになる。それをどう調整していくのか?そして,任せることで得られるものは何なのか?
私はこの特集のページをめくるのが楽しみで,わくわくする。多くの読者が同じ気持ちであることを祈りつつ,貴重な実践報告を寄せていただいた執筆者の方々,および対象者の方々に感謝する。
特集 力を信じ,任せてみよう!高次脳機能障害
高次脳機能障害者の生活の実態と支援 橋本圭司
こうやって任せています―地域活動支援センターでの実践 野々垣睦美
誰に,何を,どう任せるか―多機能型事業所でのアプローチ 若松ゆう子
任せるための関わりの継続―自立訓練施設での事例を通して 田坂麻紀子,他
どこまで任せるか―「車乗りたいっすよ」を支援した事例 藤田佳男
任せられて良かったこと,不安だったこと 辺田敏江・〔インタビュアー〕野々垣睦美
あのころ いま
「あのころ」から「これから」へのつながり 田村孝司
ライト☆すぽっと
ゴリラにみる人類の由来と未来〔前篇〕―言葉を用いないコミュニケーション 山極寿一・山根 寛
連載
再生への物語
デイサービスで充実の1日 谷田部 宏
OTが作る早技レシピ
チリコンカーンライス 宇田 薫
ほっとストーリー
いただきもの 大越 満
お家を変えよう!
関節リウマチと住宅改修 児玉道子
発達領域におけるIT活用支援
IT活用支援に用いる機器や用具,ソフトの紹介とその活用 立石加奈子
子どもといる風景DIARY
市の作業療法士として子どもたちと出会う 信澤直美
作業療法のアイデンティティー
出会いは宝物,大切に 大西麓子
Welcome to 地域リハビリテーション
番頭さんがゆく!連携―そこにセラピストがいる!(前篇) 有村正弘
リハビリテーションと上肢運動学
手関節を理解する!③―手関節の屈曲拘縮を考える 矢﨑 潔,他
重度障害者への活動分析アプローチ
前頭葉症状を呈した重度片麻痺者への作業療法 小集団で歌う活動を通して 佐藤靖伸
がん患者のリハビリテーション
がん治療の場面とリハビリテーションの役割③緩和ケア病棟,ホスピスにおけるリハビリテーション 安部能成
ライブ・アップ!
作業療法士が創造するアクティビティの実際 大場耕一
明日の現場に活かす実践
転倒・転落事故防止10カ条宣言の作成 私たちは絶対に転ばない 佐藤浩二,他
アンテナ
「障害者総合支援法」の概要と課題について 木村隆行
一枚の絵
七夕飾りに願いを込めて TRY利用者さん
パント大吉のどこでも遊ぼ!
2分で探そ パント大吉
掘り起こせ“やる気”OTスコップ隊[認知症の人編]
もの盗られ妄想 上城憲司,他
アラカルト
カメラマン川上哲也の見た世界 目次扉
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