認知症の当事者からみる・みられる作業療法
「一緒に草引きをしてくれる人」「俳句の先生」「体操のお兄さん」「リハビリの先生」「陶芸の先生」「手芸のお姉さん」,われわれを作業療法士(以下,OT)と呼ぶ人はほとんどいない。時には,訪問リハで,軽度の認知症をお持ちの方に計算ドリルを毎回持っていっていたことから,「家庭教師」と認識されているスタッフもいた。このように,実にさまざまな呼び名で呼ばれる職種は,OT以外にあるだろうか。
作業療法は,心身に障害がある,もしくはそれが予測される方に対して,作業活動を通じて治療,指導,援助を行うことをいう。さまざまな作業活動を用いるがゆえの「多彩な呼び名」であり,名誉なことといえるかもしれないし,専門性を不明確化させている1つの要因かもしれない。
今日,「人は作業をする事で元気になれる」というフレーズをよく目にするようになった。これは,当事者を主語としたフレーズである。作業療法についての多くの文献や発表は,OTの視点から「作業は人を元気にする」ことを証明しており,主語を「作業」に置いてある。すなわち,当事者側から作業療法がどのように捉えられているのかという視点は,あまりみかけないということである。
作業療法という専門性にこだわるあまり,「こんなの作業療法じゃない,作業療法士としてこんなことできない(否定)」,「やっぱり作業療法はこうじゃなくっちゃ(思い込み)」という気持ちになったことはないだろうか。どうしても,主語が作業療法士・作業療法となってしまうと,OT自身がもっているイメージや価値観を押し付け,勝手で不明確な作業療法像の型にはめ込んでしまうことも少なくないように思う。
しかし,当事者を主語とした時,当事者が元気になる作業を,元気になる方法で一緒に実現させていくプロセスそのものが作業療法であり,その中にOTのこだわりや価値観の押し付けは存在しないはずである。われわれはどう見られようと,作業療法の役割を忠実・着実に果たすことが大切なのではないかと感じている。
今回,認知症をテーマに,当事者は作業療法をどのように捉え,どのように活用されているかという視点で,作業療法を再考してみたい。
多彩な呼び名で,OT自身が気がつかなかった方法で作業療法を活用している姿が語られるであろうことを期待するとともに,当事者からみえている景色を新鮮な気持ちで楽しみたい。
特集 認知症の当事者からみる・みられる作業療法
当事者からみた作業療法とその実際 深津良太
デイサービスを利用する認知症者・家族からみた作業療法 青木智子
認知症治療病棟を退院した利用者からみた作業療法とその効果 村井千賀
介護老人保健施設入所より在宅復帰した利用者からみた作業療法 渡邊基子
グループホームで生活する利用者からみた作業療法 伊藤あおい
認知症の利用者に学んだ作業療法と支援する作業療法プログラム 上城憲司
あのころ いま
のびのびと遊ぶ 渡邉忠義
ライト☆すぽっと
ゴリラにみる人類の由来と未来〔後篇〕-人間社会の基本とは 山極寿一・山根 寛
連載
発達障害児の口腔ケア
歯医者さんは怖いところ? 宇都仁惠
ほっとストーリー
移動-身体が移り,心が動く 大越 満
OTが作る早技レシピ
大根サラダ(豚肉とひじき入り) 宇田 薫
子どもといる風景 diary
ステキな出会いに支えられ
SHINSAI マイ・ノート
避難所での支援活動で出会った笑顔 藁谷裕葵
リハビリテーションと上肢運動学
前腕を理解する!
Welcome to 地域リハビリテーション
番頭さんがゆく!〔特別番外編〕第46回 日本作業療法学会 有村正弘
お家を変えよう!
脳血管障害と住宅改修(1) 児玉道子
イラストで見る脳卒中片麻痺患者へのアプローチ
総論-ボバース概念を背景とした神経リハビリテーション 渕 雅子
再生への物語
車の運転の訓練 谷田部 宏
発達領域におけるIT活用支援
スイッチや電動玩具などの改造方法と活用
がん患者のリハビリテーション
がん治療の場面とリハビリテーションの役割(4)緩和ケアチームにおける活動 安部能成
作業療法のアイデンティティー
「ないないづくし」を「あるあるづくし」へ導く 作業療法って「おもろいでぇ」 辻 善城
レポート
全国訪問リハビリテーション研究会第19回研究大会 内堀賢志
編集部が見つけたキラリ発表
バスマットを用いた座位環境改善への取り組み 矢部力造
一枚の絵
ちょこっといすで ちょこっとボランティア TRY 利用者さん
パント大吉のどこでも遊ぼ!
ウチワパタパタ パント大吉
掘り起こせ“やる気”OTスコップ隊[認知症の人編]
その声かけ,ちょっと工夫して! 上城憲司,他
アラカルト
カメラマン川上哲也の見た世界/訂正とお詫び/書評/既刊案内/インフォメーション/次号予告