作業するってなんだろう―作業を身近に感じてみませんか
私は作業療法士(OT)1年目の時に,作業活動として,和紙を発疱スチロールに貼って器を作っていました。これは,病院にある材料と身近な材料でできるものとして,よく行っていたものです。しかし,それ以上に作業を思いつくことができなかったため,誰にでもやっていたような…,という経験があります。
誰でも,「あの人にどんな作業をしようかなあ。でも,うちの施設の環境だと,やれることは限られてしまう。また,同じような作業しかできないなあ」と悩んだことがあるかと思います。しかし,それは「与えている作業」なのかもしれません。
本来,作業・活動は「対象者が今まで経験してきた人生の活動に対して,もう一度,その作業・活動をどのように行うことができそうか」などを考え,その活動を実践していく中に含まれる,さまざまな問題や課題をクリアしていくものです。そのお手伝いをしていくことが,OTの役割だと考えます。これは「与える作業」でなくとも,本当に身近にある行為でもよいと感じます。
通常,対象者は「治れば何でもできる」と考えているでしょう(当たり前ですが)。その「治りたい」気持ちに押され,機能訓練が主体となってしまうこともあります。しかし,「本来,その人に行っていくべき行為はなんだろう」と考えると,必要な作業を行いながら,その作業をするにあたって必要な身体面や,高次脳面の問題を解決していくことが重要なのだろうと思います。身体面の問題だけを焦点化するのではなく,作業を通して対象者の想いをすり替える,切り替える。これをOTが行っていくことが,求められるのではないでしょうか。
「なんか難しそうだ」と感じる新人さんもいらっしゃるでしょう。確かに,その対象者と共に歩んできた経験のある作業を導入したり,活用するにあたって,提供するタイミングや,その作業活動に対する想いの強さなども鑑みなければならないと思います。それでも今,向き合っている対象者の声を聞いてみて,その人を知り,その対象者に必要な活動を提供することって,楽しいと思いませんか? 病気になって,人生をあきらめかけている方々に対して,ほんの少しでも道しるべになり,その場面に寄り添えることがOTの醍醐味だと感じます。
今回の特集は,身近な作業活動をテーマに,老年期に対象を絞り,作業を通しての利用者の変化や考え方などについて,伝えられたらと思い提案しました。対象者にとって身近な作業活動を行うことの意味を,若いスタッフにもっと理解してほしいという思いを伝え,もっと作業を行うことで,患者・利用者が変化する可能性があり,それができるのはOTだけであるという点を,この特集で提示できればと思っています。
特集 作業するってなんだろう―作業を身近に感じてみませんか
身近に感じる作業とは 多良 淳二 271
人と作業―食べるということを考える 大場 耕一, 276
地域リハビリテーションにおける「作業」とは 手島 智康,他 281
作業の作業療法士的な捉え方 沖邊 裕樹 286
作業は「ヒト」を価値のある「人間」にする 明田 繁 290
連載
■スキル
【新連載】臨床心理学を作業療法の場で実践する
「関わりづらさ」の背景にあるもの 田尻 寿子,他 313
回復期リハビリテーション病棟におけるチームアプローチ
多職種との情報交換とコミュニケーション技術―さまざまな場面での情報交換とコミュニケーションを円滑に行う工夫 印藤 佳子 317
■レクチャー
お家を変えよう!
認知症とインテリア 児玉 道子 309
コラム
■Opinion
らんどまーく
北風の関わり,太陽の関わり 朝倉 起己 268
ちょっといいですか?
共存社会について(その1) グループ・ピアズ 306
■ライフ
女性OTひとりで悩まないで
妊娠中の働き方―つわりがひどい時2 宇田 薫,他 300
ぼくのリハビリ物語
なぜ,ひとり暮らしをしたのか? 藤井 規之 302
作業療法のアイデンティティー
昔があるから今がある 志井田 太一 321
■View
一枚の絵
私たちのお祭り 岡田 葉子 297
パント大吉のどこでも遊ぼ!
河原で積石くずし パント大吉 298
■レポート
第4回 日本訪問リハビリテーション協会学術大会in熊本 松浦 篤子 324
編集部が見つけたトキメキ発表
第16回 世界作業療法士連盟大会・第48回 日本作業療法学会
カンボジア,ラオス,ミャンマ,ベトナムに作業療法の種をまこう―オンライン教育を活用した連携アプローチ 林 由美子,他 325
医療から地域へつなぐ外来作業療法が奏功した生活期脳出血の1例 村瀨 あゆ美,他 327
アラカルト
はじまりのことば 巻頭色頁
カメラマン川上哲也の見た世界 目次前
書評 295
本の街道 そぞろ歩き 312
インフォメーション 329
既刊案内 320
次号予告 333