担当患者のその後を知っていますか?―つなぐ作業療法
入院日数が短くなる中で,ある一定の時期の患者の姿しかみていない作業療法士(OT)が増えた。そのような中,「退院時の姿=一生の姿」と思っているOTも多く,担当でなくなった後,患者ごとにさまざまな生活が展開されていることを知らない。
急性期から回復期,回復期から生活期へと次にバトンタッチするOTは,身近にいる場合が多いのに,「サマリー」という紙を届けるだけである。それで,どこまで対象者のことをつなげることができているだろう? もっと,1人の対象者を,身近なOT同士が責任をもってつながなければならないのではないか? OTが取り組んでいたプログラム・課題はすべて,その後の生活を考えて行われたものであり,それを次のOTに伝えなければ,自分たちのアプローチの意味もみえなくなる。
しかし,現在「その後を知らない」OTが大半であるため,「つなぐ」必要性や効果が分からないままとなっているのは,仕方のないことである。よって今回は,急性期⇒回復期,回復期⇒生活期,生活期⇒地元への帰省という経過をたどられた事例を,回復期,生活期で担当した2人のOTが,また精神科領域からは入院を終え,長い期間,地域で生活できている事例を入院と地域,それぞれのOTが報告する。そして,自分たちの担当期間が終了してから後の事例の生活を知った時,それは改めて自分たちの提供するサービス内容,自分たちのサービスが終了してから次のステージにつなぐ内容と必要性などを再考する機会になるだろう。
OTが,皆で「1人の対象者を支える」という考えをもったとき,その地域のOT同士がもっとつながるべきだと考えるし,本来はそのようにあるべきである。卒後教育の観点から考えても,先輩OTが後輩OTに指導できる,よい機会にもなるであろう。1人の患者の生活が再構築される経過の中で,自分たちが担当する時間は一時期であるかもしれないが,その患者の回復過程において,その一時期は非常に重要であるということが理解でき,同時にOTという職の素晴らしさにも改めて気づくことになるであろう。
なお,今回の特集を形にするにあたり,たくさんの方々にご協力いただきました。快く取材に応じてくださり,掲載にご理解を賜りました事例の方々,そしてすべての関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。
特集 担当患者のその後を知っていますか?―つなぐ作業療法
退院後の担当患者を知ることの意味―縦のチームを創ること 澤 俊二 439
第1部 身体障害者が回復期から生活期へ,OTの連携を通じて地元で暮らすケース
回復期からつなげる作業療法 前田 美奈 447
回復期から在宅への移行,そして帰郷先の生活へ 宮里 麻須美 453
身体障害領域の作業療法士が症例の「その後」を知って 宇田 薫, 459
身体障害領域の対象者の「その後」を知り,作業療法の役割を知る 宇田 薫 466
第2部 精神障害者が病院から地域へ,OTの連携を通じて地元で暮らすケース
退院意欲につなげる作業療法―退院までを支えて 山田 睦 471
地域定着につなげる作業療法―退院後を支えて 山本 恵理子 476
精神科作業療法と地域定着支援のつながりの検証―退院時の予測とその後の生活を知って 苅山 和生,他 482
精神科領域の作業療法士がつなぐこととその意味―本人と支援者の振り返りをもとに 苅山 和生 486
連載
■スキル
イラストで見る脳卒中片麻痺患者へのアプローチ
ADL障害の理解と介入③ 渕 雅子 491
臨床心理学を作業療法の場で実践する
障害を負うこと,失うことが引き起こす心理的反応 田尻 寿子,他 507
回復期リハビリテーション病棟におけるチームアプローチ
カンファレンスでの多職種との相互理解―その改善と作業療法士が果たす役割 井上 英二 517
■レクチャー
お家を変えよう!
脳血管障害と住宅改修③ 児玉 道子 504
コラム
■Opinion
らんどまーく
人との出会いを大切に 渡邊 基子 436
■ライフ
女性OT☆ひとりで悩まないで
妊娠中の働き方―相談者の今 宇田 薫,他 500
ぼくのリハビリ物語
30代後半のリハビリと生活 藤井 規之 502
作業療法のアイデンティティー
地域における作業療法のアイデンティティー 大熊 明 513
■View
掘り起こせ“やる気”OTスコップ隊 認知症の人編
重度認知症の人への創作活動(その1) 上城 憲司,他 497
パント大吉のどこでも遊ぼ!
ホームゴルフ パント大吉 498
一枚の絵
クラスノートにトライした,あーちゃんの笑顔 酒井 康年 506
アラカルト
はじまりのことば 巻頭色頁
カメラマン川上哲也の見た世界 目次前
書評 496
インフォメーション 512
総目次 521
既刊案内 524
次号予告 525