精神障害とスポーツ-サポーターは作業療法士
障害の有無に関わらず,年齢や体力・目的に応じたスポーツに親しむことは,明るく元気にいきいきと生活するために大きな意義をもっている。スポーツに親しみ身体を動かすことは,爽快感や達成感を満たし,体力向上やストレス発散といった心身両面にわたって健康の維持増進に効果があるといえる。また,スポーツには遊戯的な要素や競技的な要素があり,身体を動かし楽しむだけではなく,仲間との連帯感を深め,他者と競り勝つために,時には計算(先を読む)力も必要とする。
多くの機関で,精神科作業療法の手段としてスポーツ活動を用いている。スポーツを通した成功体験は当時者たちの自尊心や自己効力感を高め,対人交流機会になり,認知機能の改善に役立っている。精神科領域におけるスポーツは,以前は精神科入院者の余暇活動として行われていたが,現在ではリハビリテーションの手段として用いられることが多くなった。また,近年はその種目としてフットサルが盛んに行われるようになり,その実践の有用性は作業療法やリハビリテーションに関するさまざまな学会などにて報告や実証がなされている。
そこで,本特集ではスポーツ活動の中でもフットサルに注目したい。フットサルは5人制のミニサッカーで,室内で行われ,男女問わず気軽に楽しめることから現在,全国で100を超える精神疾患患者のチームが活動を続けているといわれている。海外においては,フットサルやサッカーを通じた精神障害者への支援は盛んで,イタリアでは精神障害者サッカー協会も設けられている。わが国では2015年10月に,愛知県において精神障害者フットサルの第1回全国大会を行い,その後2016年には大阪府にてイタリア・イングランド・ドイツ・ペルー・韓国などの各国が参加しての世界大会の開催が予定されている。
サッカーの神様と称されるペレ(Pelé,Edson Arantes do Nascimento)は,「成功は偶然の出来事ではない。勤勉,忍耐,練習,研究,謙虚,そして何よりも愛情が必要である」との言葉を残している。主語を作業療法に置き換えても,その意義は通じるものがあると思う。フットサルを通じて,人とのコミュニケーション力を高めようという取り組み。その具体的効果を示し,どのように当事者の主体的な生活能力の獲得に結びついているか紹介したい。
特集 精神障害とスポーツ -サポーターは作業療法士
編集担当 朝倉起己
精神医療とスポーツ 岡村武彦
精神科作業療法とスポーツ-効果と作業療法士の役割 坂井一也
精神障害とフットサル-愛知県での取り組み 北野智和
〔フットサルを通してリカバリーする〕
事例(1)チーム内の交流からコミュニケーションが変化したケース 中西美和子
事例(2)自主運営のチーム「BOSCO NEXT」に変わって 羽田舞子
事例(3)役割の効果 -キャプテンになったことを機に変化した事例 高野 隼
事例(4)長崎県の精神障害者スポーツの現状とamigo 長崎のあゆみ 本村幸永
フットサル vs 手工芸 精神障害者へのスティグマ低減効果の比較-養成校学生を対象として 中村泰久
列島情熱作業療法
ぼくとつな子どもの力に魅せられて 香村朱美 さん
連 載
■ スキル
OTケアマネジャーはこうした!
「気ままに1人暮らしをしたい」と望んだアルツハイマー型認知症の事例 丸子佐和子,他
臨床心理学を作業療法の場で実践する
死に直面された方に接するとき(その1) 田尻寿子,他
学校では習わないメソッド
キネステティク-自然な介助のテクニック 北川弘二
作業療法士が創る嚥下障害へのリハアプローチ
地域における嚥下往診システムの構築 寺本千秋
■ レクチャー
お家を変えよう!
2世帯住宅と住宅改修 児玉道子
しきたりを読み解く
がんリハビリテーション研修会の課題 安部能成
コラム
■ Opinion
らんどまーく
変わるものと変わらないもの 三瀬和彦
■ ライフ
女性OTひとりで悩まないで
職場でざっくばらんにディスカッションしてみました! 宇田 薫
OTとして私が大切にしていること
「当たり前」のもつ力 上田章弘
■ View
掘り起こせ“やる気”OTスコップ隊[認知症の人編]
認知症の人にハッとさせられる瞬間 上城 憲司,他
なんでもできる100 均グッズ
ガラスシール作り 灘 裕介,他
勝手にOT番付
東西前頭筆頭 仲地宗幸,他
一枚の絵
オラフ,できた!! 田中 亮
アラカルト
作業療法周辺のニュース/はじまりのことば/カメラマン川上哲也の見た世界/既刊案内/書評/インフォメーション/次号予告