あの手この手の就労支援
精神分析の創始者であるオーストリアの精神科医,フロイト(Sigmund Freud, 1856—1939)は,「人が健全となるためには何をすべきか?」と問われて,「愛することと働くこと」と答えたという。
一般的に,就労は役割と責任を負う経験となり,集団においてはコミュニケーションや対人技能を必要とする。また,働くことは知識や経験の獲得につながり,地域での活動機会ともなりうる。就労の病気に与える影響については,まさに「仕事は天然の医師なり」という古代ギリシャの哲学者ガレノス(Claudius Galenus, 129—200頃)の言葉どおり,治療の一助となると考える。
楜澤1)は,「就労からは労働の対価としての報酬や社会的貢献,自己実現などのさまざまな経験を得ることができ,また病気を経験しての働くことの価値はなおさら」とし,「就労は病気からの回復の証であり,病者の役割から人に期待される役割への転換となり,そして働くという体験から導き出される自尊感情や自己効力感の向上は『回復』を促していく」としている。
作業療法で出会う対象者で「働きたい」と希望される方は多い。本特集では,その希望や目標に対しての作業療法について,就労支援・復職支援の実際を再考したい。
なお,本特集内の事例はご本人の同意を得て掲載している。
1)楜澤直美:遊ぶ・働く.精神障害とリハビリテーション 9:19—24,2005
特 集 あの手この手の就労支援
編集担当 朝倉 起己
“働く”に至る,就労適齢期までのプロセス 灘 裕介 ●104
若年脳卒中患者の就労支援を通じて学んだこと―仕事が定着しなかった女性症例を通して 吉嶺 綾乃,他 ●108
就労移行支援施設に通所し,脳梗塞発症から3年後に障害者枠での就労に至った症例 小圷 仁美 ●112
高次脳機能障害者の継続支援の重要性について―復職後職場環境の変化によりトラブルを招き,孤立化した事例 吉田 安祐子 ●117
発症から長期経過した高次脳機能障害患者に対する外来作業療法支援の1例 平原 由梨子 ●121
「強み」を活かした取り組みから就労につながった脳性麻痺者の1例―機織り教室の開催に至るまで 斉藤 崇宣 ●126
精神障害領域における就労支援の実際―当院トライワークの事例から 朝倉 起己 ●129
烈闘作業療法
自己決定支援で可能性を引き出す 田渕 香さん ●96
連 載
【新連載】これから臨床実習にでる君へ
臨床実習に臨む学生の心得 山田 聡恵 ●134
【新連載】レストランOT奮闘記―汗と涙の就労支援
障害者雇用が社風を変える?!―ある焼肉店の挑戦 仲地 宗幸 ●142
片麻痺の方への促通反復療法 OT実際編
肩甲帯・肩の促通手技 大郷 和成 ●147
OTケアマネジャーはこうした!
要介護5からの再スタート―Aさんの「やりたい」を支援する 丸子 佐和子,他 ●153
コラム
らんどまーく
実は私も酒が好き 青木 博文 ●94
掘り起こせ“やる気”OTスコップ隊 認知症の人編
家族からみた認知症の症状(その4) 上城 憲司,他 ●137
女性OT ひとりで悩まないで
「子どもとの時間」と「スタッフとの時間」のバランス 宇田 薫,他 ●138
なんでもできる100均グッズ
玉落としゲーム 灘 裕介,他 ●140
私が出会った作業療法
作業療法とは,身体のリハビリ,そして,心のリハビリ 佐野 智恵 ●157
OTとして私が大切にしていること
「感謝」することの大切さ―フリーのOTとして現場で学んだこと 渡邊 雄介 ●161
アラカルト
作業療法周辺のニュース ●164
カメラマン川上哲也の見た世界 ●目次前
書評 ●168,169
次号予告 ●172
はじまりのことば…川口 淳一 ●巻頭頁
既刊案内 ●160
インフォメーション ●170