知ってますか, できてますか? 自立支援!
高齢者支援における「自立支援型介護」「自立支援型マネジメント」や,障害者の「自立支援」など,「自立」という言葉を目にする機会が多くなっている。その背景には,できるかぎり自分のことは自分で行い,働き賃金を得ることで自立した生活が送れるように支援することが考えられる。そのような中,「自立した生活」とは何なのか? あらためて考えてみたい。 医療機関においてはセルフケア(狭義のADL)が自立することが在宅復帰の目安になってくる。しかし,セルフケアの自立が本当にその人の自立した生活に結び付くのであろうか。もちろん,身の回りのことを自分自身で行うことは必要であると考える。しかし,すべての生活行為が自分でできなくても,他者に依頼することができれば,自分の力で課題を解決することができたと考えることはできないだろう
か。
また,介護ロボットやI oT(Internet of Things)の発展とともに,人間が直接身体を動かさなくても生活が成り立つ時代に突入している。たとえば,掃除ロボットで家屋の清潔を保持することは,介護サービスを導入しないという点で自立と判断されるかもしれない。しかし,便利な道具を多用することで人間の行動範囲が縮小され,身体を動かさないことで廃用症候群を助長するリスクがある。
このように,「自立」というものを一律に考え,作業療法,あるいはリハビリテーションを進めてもよいのであろうか。どのような暮らしに,どのくらい自分自身が携わり,どのくらいの自己満足感や自己肯定感を感じるかはその人,その人,それぞれである。対象者の「自立」に関する捉え方は多様であっても,作業療法士としての「自立」に対する考え方の軸は共通認識として必要になると考える。また,チーム医療や多職種協働においても,作業療法士の自立に対する軸というものをもっていなければならない。そこで,対比される考えとして「寄り添う介護」との対立が懸念される。どちらが正解で,どちらかが不正解という問題ではなく,対象者がどのような価値観を優先しているかという点で選択肢を提示することも必要であると考える。
そこで,私たち作業療法士が考えている「自立」という観点と,あらゆる機関,組織の多様な方々の「自立」に対する考えを比較しながら,作業療法士が考える「自立」というものを考えてみたい。読者の皆様にとって,「自立」というものをあらためて考え,自分にとっての「自立した生活」の軸を定める機会になることを期待している。
知ってますか, できてますか? 自立支援!
編集担当 寺門 貴
自立について 中西 英一
作業療法士に期待される役割と求められる機能―尊厳の保持をベースとした自立支援の実践に向けて 川越 雅弘
吹田市が取り組む自立支援型ケアマネジメントについて 藤田 陽子
地域包括ケアシステムの推進に作業療法士が貢献するということ―介護予防における作業療法士としての自立支援のあり方 三浦 晃
医療の立場から―訪問作業療法から自立支援を考える 長坂 真由美
地域ケア会議から考える自立支援 松木 信
連 載
見せます! OT 室のちょっとしたアイデア
リノベーションで生まれ変わったOT 室 松浦 篤子
【新連載】はじめての患者さん
失語症の患者さんの参加・活動支援 上野 繕広
【新連載】Allen の認知能力障害モデル
Allen 認知レベルのスクリーンの紹介 岡村 太郎,他
未来の作業療法☆設計図
チャレンジの繰り返しによる社会課題解決型サービスの創り方―ショッピングリハビリⓇ事業を通じての深化と進化 杉村 卓哉
責任者はつらいよ,でも楽しいよ
カタマヒ経営者もつらいが,しっかり生きているよ! 葉山 靖明
甦るヒストリー―再掘作業療法:私のたどった細道
生活療法の中で 浅海 捷司
コラム
らんどまーく
患者さんは、先生 原 長也
複眼で見る
廊下と階段の手すりのとらえ方 久保田 好正
OT として私が大切にしていること
OT というコンパスをもって―出会いと経験から学んできたこと 古村 香
女性OT ひとりで悩まないで
「がむしゃら」から「整える」ライフワークバランスへ 宇田 薫
じいとコロニャン
思い出のアルバム パント大吉
【3 年目編】3 年目OT あゆみちゃんの回復期リハ病棟記
相談が少ない近藤さん 吉川 歩
社会の目・OT の目
働き方改革と学校養成施設指定規則の改定について思うこと 鎌田 荘平
広島カープの勝敗結果へのOT 的理解は? 葉山 靖明
アラカルト
巻頭頁 はじまりのことば…川口 淳一
目次前 カメラマン川上哲也の見た世界
今月の表紙の「ことば」
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